時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】

1 題名 

いつか爆ぜた心

2 作者 野々小花さん
3 投稿 19/02/17
4 書出 『午後の授業を終えた教室は解放感に満ちている。』

 

面白かったです。
特に担任教諭が杉里さんの肩を叩いたのを目にして『思わずひやりとした』という主人公の感想に臨場感があると思いました。また、主人公にもヒロインにも当てはまる作品名も秀逸だと感じました。

 

◎あらすじ

 優等生でいることに耐え切れなくなった過去を持つ主人公が、同級生女子の苦労を目の当たりにして、助力を申し出るお話です。

 

◎感想

 好みの構成でした。

 

 何よりも唸ったのは、主人公もまたリハビリの途中なのだと感じさせる逡巡『彼女にとってそれは、何でもないことかもしれない。ただ僕が、あまりに弱い人間だっただけなのかもしれない。だけど絶対に大丈夫なんて、そんなの、誰にも分からない』という箇所です。良い描写ですね。

 

 正直なところを言えば、主人公とヒロインの大変さは種類が違うわけです。

 

◇主人公の大変さ

 ・『物心ついた頃から、勉強漬けの日々』

 ・『学校から帰ると、必ず家の前で母親が待っていて、そのまま習い事の教室や塾へ通った』

 ・『外で友達と遊ぶ時間も無』

 ・『テレビを見ることも許されな』

 

『両親から褒められる度に苦しくなった』、『ある日、突然、何も出来なくなった。体が動かない。勉強机に座ることすら不可能』

 

◇ヒロイン(杉里さん)の大変さ

 ・『学級委員』

 ・『生徒会役員』

 ・『日頃から何かとクラスの面倒事を引き受け』ている(通う高校には『素行に問題のある生徒』が集まっている)

 ・『母子家庭』『弟が三人、妹が一人いる』

 ・『母親は仕事で家を空けることが多い』

 ・自転車に『幼稚園児の妹を乗せ、後ろのカゴにはスーパーで購入したのであろう大量の食料品を積んでいる』

 

『繊細そうな顔立ち』『控え目で』『大人しいけれどしっかり者』『たった一日で卒業式の司会進行の予定表を作った』

 

 

「周囲の期待に応える」という共通項なのかもしれませんが、主人公の大変さは全て自分に向いたもので、ヒロインの大変さは全て他人に向いたものなんですよね。それを自分と同じようになってしまうんじゃないか、と同列に扱っている主人公は、まだ本当の意味で他者に向かう思考が身についていないのだと感じられます。この対比が興味深くもあり、主人公がいつか本当の意味でヒロインの強さを思い知る日が来るのだろうな、と予感せずにはいられない。そんな作品でした。

 

 あと、『爆ぜる』に表記を統一したところも思い切られたなあ、という気分です。確かに【弾ける】を辞書でひくと、はぜる、て書いてありました。ううむ。うまい。