第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】
1 題名
箱
2 作者 W・アーム・スープレックスさん
3 投稿 19/02/27
4 書出 『「こんにちは」』
『幸せとは程遠い人生』と語る主人公の変容ぶりと、それをもたらした箱の異質さが際立つ作品でした。また、箱の始まりを知るであろう『嵐福三』という人物も謎めいていて、奇妙さが残る読後感でした。
主人公・月波等の家に箱を持った男が訪れる。男は『あなたを幸せにするものがはいっている』と告げて、箱を残して去る。主人公は箱を開けるべきか逡巡するが、開けようとした途端、えもいわれぬ多幸感に包まれ満足する。「自分より不幸な人間に譲るべきだ」と思い立った主人公は近所宅を訪問し、箱を手渡す。
「ドーン!!!!」という結末かと思ったらリレーものでした。
要するに、『笑ゥせぇるすまん』(藤子不二夫A,中央公論社,1989.)かと思ったら、『ペイ・フォワード 可能の王国』(監督:ミミ・レダー,2000.)でした。
名刺の名前がですね……『嵐福三』と……喪黒の親戚ですか、てくらいの名前でパロディ感が強いです。てっきり、箱を開ける約束を破ったからお仕置きされるのかと思いましたが、その辺りは関係なかったようです。
何とも不思議な箱ですが、むしろ気になるのは『嵐福三』の名刺ですよね。
裏面には『びっしり人名と電話番号が書き込まれている。ざっと見ても三十人はいそうだ』とあるんですが、何故、そんな情報が記載されているのか? それが気になるところです。
書き込んだのは誰なんでしょうか?
箱をリレーしてきた人物達なのか?
それとも『嵐福三』なのか?
『嵐福三』についても謎が多いですね。
彼は本当に作中で登場しているんでしょうか?
主人公は『嵐福三は、あとはもう何もいわずに、たちさっていった』とあるとおり、箱を持ってきた人物を『嵐福三』だと認識しているようです。名刺を受け取ったのだから、当然そう思うでしょう。
ですが、男が自らそう名乗ったわけでもありません。さらに言えば、本作の結末を読む限り、彼は『嵐福三』ではないように感じられます。要は、名刺もまた箱と一緒にリレーされているのではないか、と。つまり、箱を持ってきたのは主人公のご近所さんだという解釈です。
ですがそうだとすると、主人公が名刺に自分の情報を記載していないところが気になります。名刺をわざわざ登場させたのに、作品の軸に絡ませることなく消費した印象が強いです。
ここまでくると、本作が「不思議な箱を自ずからリレーさせてしまう奇妙さ」のようなものを描かれていたのかどうかわからなくなります。不要な情報……というよりは、用意した素材の活かし方を作者様が十分に準備できていない印象です。雰囲気だけで書いているというか。
不思議な物語、としての奇妙さよりも、話の進行の不可解さが目に付いてしまった点は残念です。あと、一部の表現ではあえて漢字を使われないことでどのような効果を狙われているのかわかりかねる部分が見られました。