第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】
1 題名
ヤオのはじまり
2 作者 海見みみみさん
3 投稿 19/04/16
4 書出 『昔々。』
想い人のために費やした年月や辛い修行を想像するだに不在の家を前にした主人公の絶望が胸に迫ります。一方で、病弱な彼女が幸せな家庭を既に築いている場に遭遇してもなかなか辛いところで……主人公の歩んだ道の険しさを感じさせる作品でした。
主人公・ヤオは、病弱な想い人のために仙人に弟子入りして不老不死の妙薬の調合方法を聞きだした。完成した薬剤を持って彼女の家を訪ねるが3年前に死んでいた。今度は自力で、蘇りの薬の調合を研究し始める。その過程で多種多様な薬が生まれたので、中国語では薬を「ヤオ」と発音するのかもしれないね、という話。
「アル」ってすごいアルヨ。
語尾に「アル」。
これがキャラクターに与える印象や会話の効果、由来や語源など……「アル」を取り巻く表現が、割と真面目に議論されていることを本作をきっかけに知ることができました。本まで出版されているんですよ。すごいですね。
さて、本作って実は『浦島太郎』的な話じゃないのかしら、と思ったりもしました。
ヤオは『若者』と表現されていますが、『仙人の元で修行したのは大変長い期間でした』とも書かれているんですね。
この『大変長い期間』というのは語り部の主観なので正直なところはわかりませんが、ヤオの行動を考えると時間の捉え方が常人とは違うんじゃないかと。
例えば、不老不死の薬の調合シーンですが、ヤオは想い人の命がかかっているとは思えないほどの適当さで2か月弱の期間を費やします。しかも、温度やコンマいくつの重量といった精密な調整ではなく、『二度あることは三度ある。材料をテキトーにぶちこめばいい程、不老不死のクスリは簡単ではないようです』というように、材料を間違えるという初歩以下の段階です。これが免許皆伝レベルなわけですが、ヤオ自身が既に不老不死であれば何も問題はないわけです。作中でも描かれていますが、『不老不死なので、時間はいくらでもあります』。
つまり、ヤオは既に仙人に不老不死の薬を飲まされていたんだ!
な、なんだってー(棒
ということは、ヤオの修行期間は本当に長かったと思うんですよね。とはいえ、想い人・ピンの家が建て替えられていないので、数十年ってところでしょうか? とにかく、それだけの期間を経て、ピンの家を訪ねると彼女は既に亡くなっている。
でも、病死したのかどうかわからないわけです。
ピンが天寿を全うした可能性は大いにあるわけです。
ピンはヤオが戻ってくることを信じていたでしょう。
いつか二人は結ばれるものと。
不老不死の薬よりも、今は二人で過ごす時間がほしい、と。
でも想いは届きませんでした。
……彼女は生涯、独身を貫いたでしょうか……? ヤオが薬の語源なら、ピンは独身の語源ですね……ポルトガル語か……(違う
そして戻ってきたヤオは数十年経っている意識もないまま、ピンが死んだことに絶望する。だいぶ、常識を失ってしまっているようです。痛ましい。
そして、『「……もうここまで来たら、破れかぶれアル。こうなったら今度は自分で、ピンを蘇らせるクスリのレシピを見つけてみせるヨ!」』となります。
どんな状況でもクスリの力で一発解決。クスリの力を信じてる!
クスリだ……
とびきり強烈な一発があれば……
クスリをくれえ……
薬物依存みたいになってしまいました……