時空モノガタリ-感想録

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いまのひとこと 読まねば

第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】

1 題名 

実践! 料理部

2 作者 犬飼根古太さん
3 投稿 19/04/16
4 書出 『「実践」を掲げる料理部であること。』

 

12人前の料理を用意するには確かに費用が嵩むことでしょう。漠々たる活動方針ながらも謎解きのような議論に熱中できる料理部員達の意欲的な態度が清々しく感じられました。

 

あらすじ

「実践」を重んじる部活動として廃部寸前から復活した料理部。今日もまた「実践」的料理に挑む部員達。レシピ通りには揃わない食材……その実態は、ただ資金のない部活であった。

 

感  想

 

 彼ら彼女らは何を目指しているんでしょう?

 

 一世を風靡した「部活もの」。

 電波新聞部や木工ボンド部、隣人部……創作上の様々な部活はわたしたちをワクワクさせてくれたものです(ぇ

 

 さて本作で登場する『料理部』。

 メジャーな部活なんでしょうか?

 個人的には家庭科部の方が身近なんですが、料理に特化した部活動も多いんでしょうね。作中でも、『レシピと材料を確認した段階だけで、ここまで議論が白熱する料理部が他にあるだろうか。もしかしたらあるかもしれないが、あまり一般的ではないだろう』とあるので、少なくとも一般的か特殊かを測れる程度には存在するのでしょう。

 

 本作は終始一貫して、主人公視点で部活動が解説されます。

 新入生向けに部活のイメージビデオとか作るとこういう感じになるのかもしれません。編集ソフトの特殊効果機能なんかを駆使して、『「――さすが実践的な料理部!」』とか強調するのかもしれません。

 

 ただ、それで? の先が見えてきません。

 本作の面白さは、資金面でかつかつな部活動運営を「実践的」の旗印を掲げて誤魔化していることに新入生達が気づかないまま感動している、という部分なのかもしれませんが、何というか……その行動自体が演技がかっているように思えてなりません。新入生達は、どうして真剣に議論して、なおかつ感動すらしているのでしょうか?

 

 グルメ作品には、ゲストからの無理難題のオーダーに対して、料理人が経験と知恵と工夫で応えてみせる、という展開が往々にして見られます。王道、といっても過言ではないでしょう。

 

 本作も新入生達は「レシピどおりに作った料理の味を、レシピとは違う(又は少ない)材料を使って再現してみせるように」というオーダーを受けます。たまごアレルギーの人にたまごを使わないでオムレツの味を提供する、とか、ヴィーガンの人に肉の味を提供する、というような背景があるわけでもなく、ただ、そういうオーダーを受けます。

 

 そして真剣に悩みます。

『「部長……レシピには、ジャガイモやニンジンなどが記載されてるんですが……」
 現在料理部にあるジャガイモとニンジンなどの材料は明らかに足りない。物によっては一人分程度しかない』

『「レシピには中辛って書いてあるのに……辛口と甘口しかないんですけど、しかも……」
 彼女が掲げているパッケージを見ると、どうやら甘口はほとんどなく、辛口が多いらしい』

 

 さて悩みぬいた結果。

 作中では辛口から、いかに刺激性を排除するか、に力点を置いて描写がされます。正直、中辛を再現する、とかは関係ない展開です。

 

 さらに、ジャガイモやニンジンって他の材料で再現できるのかしら? と思いながら読み進めていくと『具が少ないので、ナスも入れることにしたらしい』という……再現? という結論に達します。

 

 そして終幕では『「美味しいわ」』『「うん。サイコー!」』と言ってカレーをみんなで味わってめでたしめでたしです。

 

 ……味の再現じゃなくて、とにかく一品作って提供する、という展開で良いのであれば、食材がほとんどない状況で、海老の頭と玉ねぎでかき揚げを作るくらいの構成が個人的には希望です。