時空モノガタリ-感想録

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いまのひとこと 読まねば

第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】

1 題名 

ハルタ、街へ行く

2 作者 宮下 倖さん
3 投稿 19/01/21
4 書出 『旅立ちの時は来た。』

 

誰かにとっての特別になりたいという想いを抱いた旅立ち――ロードムービーの醍醐味ですね。とはいえ、無条件に必要とされる場面にはなかなか出会わないのが常で、自分の居場所を持つ難しさを痛感するものですが、本作の主人公は良い出会いがあったようで何よりです。

 

 

タンポポ空を行く』(藤子・F・不二雄,『ドラえもん』(てんとう虫コミックス第18巻収録),小学館,1979.)を思い出しました。あの作品は本当に名作でした……

 

本作でも、たんぽぽ(とは明言されていないので、何かの植物)の綿毛らしき主人公が街を目指して空の旅に出るのですが、少し残念に思えたのが、結末が早急過ぎたように感じられた箇所です。

 

まず、主人公は旅立ちの日を迎えます。ところが、近場で満足したり、集団で行動する仲間達の姿に物足りなさを感じ、『「みんなと同じじゃつまらない。ぼくは、ぼくだけの場所を探しに街へ行くよ」』と宣言するわけです。

 

旅に出ると、道中、『仲間たちの気配を感じる場所がいくつも』あり、『もうここでいいんじゃないかと弱気になることもあった。』と後ろ髪を引かれる思いがします。

 

それでも、『街へ行くんだ。見たことのない世界を見る。』と心を強く持って、望郷の念を振り払います。

 

そして、ついに街に到着します!

『いくばくかの草むらのなかに、かろうじて土が見える道端に、黒光りする固い地面の隙間からもその気配はたしかにあった。』と、街の様子を見て回る主人公。そんな時に、『「もうずいぶん長いことひとりぼっちなの」』と泣く植木鉢に出会います。

 

そして、『「ぼくじゃだめ? ぼくが一緒にいるよ」』と言って植木鉢を自分の居場所として即決する、という終幕です。

 

……主人公の思い切りがいいのですけど、『旅の途中』にこんなあっさり決められてしまうと、さあこれから街での活躍が始まるぞ、というタイミングで幕を下ろされたような……もう、見たことのない世界を見る旅は終わっちゃったのかな? という不完全燃焼感が燻ります……