第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】
1 題名
Frajile
2 作者 みやさん
3 投稿 19/02/18
4 書出 『キッチンで朝食の用意をしていると、十三歳の息子が二階から降りてきた。』
生死をコントロールするためには、きっと感情を越えていかなければならないのだろう、と感じさせる内容でした。死に純粋な恐怖を抱く主人公と、それを受け入れる息子の姿に個の自立を感じました。
◎あらすじ
本作は、生物が死を克服しつつある世界で、死なないペットの犬を巡って、死をおそれる主人公と、死を受け入れる息子の対立が描かれた作品です。
◎感想
まず目を引くのがタイトルです。
どういう意味があるんでしょうか?
一見すると「fragile」(壊れやすい、もろい、虚弱な、かよわい、はかない)かしら、と思うのですが綴りが違います。とはいえ、おそらく「fragile」を前提として、作品の根底にある「人工的な異物」を表現するために、あえて「g」を「j」にされたのではないか……と個人的には推測しているのですが、じゃあ何でjなの? というと……事実のほどは作者様でなければわかりませんね。
また、結末にも少し不穏さを感じました。
死生観について母子の間に決定的な溝があることが描かれた終盤を受けた結末だったからだと思います。
主人公は『「死なないって素晴らしい事じゃない?永遠に生きられるのよ?」』、『「だって、大切な人や犬が死んじゃったら悲しいし、あなただってお父さんが死んだ時悲しかったでしょ?」』と、死そのものを忌避したがっています。これは彼女の経験から積み上げてきた感情でしょう。
一方で息子氏は『「死なない犬とか枯れない花とか本当気持ち悪い」』、『「永遠なんて、なんの価値もないだろ?」』、『「死ぬ為に生きて、産まれる為に死ぬんだって学校の先生が言ってた」』と、死を積極的に捉えています。教師の受け売りの死生観と、己の感情が合致したことによるのでしょう。
それらを踏まえた上で、主人公が「ああ、息子の言うとおりだ……私は視野が狭くなっていた」と思い直すかと考えると……そうは思えません。
むしろ『息子は嬉しそうに笑った。それを見て私はエタニティー・ライフプロジェクトからの二通の葉書を手の中で握り潰した』という結びの言葉が、主人公のなかでスイッチが入った合図といいますか……
次の瞬間、主人公がゴルフクラブを振り上げて息子に振り下ろす!
すかさず避ける息子。砕ける食器。へこむ家具。吠える犬。再び、振り下ろされるゴルフクラブ。ぎゃん、という甲高い鳴き声とともに、犬が弾き飛ばされる。犬に駆け寄る息子。「何するんだよ母さ……!」
能面のような主人公の顔に、思わず口をつぐむ息子。
「大丈夫よ。だってノエルは死なないんだもの」
「なに……言ってるんだよ」
犬の荒い呼吸が部屋に響く。主人公が口を開く。
「ほら。ね。こんなに生きたがってる。『しんどい』のに。死にたくないのよ」
ゴルフクラブを握る手に力がこもる。振り上げられるそれを息子は凝視する。
「あなたは、どうなんだったかしら?」
……こわい。