時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】

1 題名 

ツイスミ不動産 物件5: 504号室アパート

2 作者 鮎風 遊さん
3 投稿 18/12/19
4 書出 『外が暗い。』

 

かつて住んだ部屋と同じ部屋番号に住みたい、という老作家の願い。『妄想力場の504号室で執筆三昧の暮らしをして行きたい』という夢が叶うのかどうか気になるところです。

 

文体がとにかく時代を感じさせます。

青い鳥文庫の児童文学でも最近はお目にかかれない文章です。

例えば、男女二人、あだ名で呼び合うという繋がりだけで挙げさせてもらうのも憚られる、作家の辻真先氏ですら1970年代に書かなかったような言葉のオンパレードを目の当たりに出来ます。

首筋がソワソワします。しかもこれはシリーズモノだそうで……

 

『「バッ・キャロー!」』

 

(以下にもシビれる文章の抜粋だゼ! バッ・キャロー!)

◎『「氷河期到来か」と大袈裟に吐き、視線を室内へと戻す。それからおもむろに「そうだ、今夜は鍋にしよう、だけど準備に時間が掛かるん…、ですよね」と語尾強調の独り言を。』

 

◎『「クワガタ、何が言いたいのよ?」とルージュ濃いめの口を尖らせた。だが紺王子にとっては思う壺、さらりと提案する。
「笠鳥凛子(かさとりりんこ)課長、いやカサリン様、早仕舞いしませんか?」
 シーン。
 凍り付いた静寂が…、約30秒経過し、突然女性課長のヤケに青い瞼の上の眉毛が逆八の字に。
「アータ、私の源氏名はカサリンでなく、英国王室風のキャサリンでしょ」と。
 えっ? クワガタには微妙な違和感が…。
「あのう、課長、怒りのポイントが若干ズレてませんか。普通ここは渾名ではなく、早仕舞いの方だと思いますが」と。この指摘に、寒空に突き刺さるほど鋭利な声で女鬼が吠えたのだった。
「バッ・キャロー!」』

 

◎『キャサリン様は「アーリー・クロージングは来年に持ち越しよ」とカシコぶった英語を冒頭に置いて結論し、その後一瞬で微笑む観音様に大変身。』

 

◎『数多の艱難辛苦を乗り越えてきたのだろう、奥様が「パワハラに部下ハラ、だけど結構名コンビかもね」と表情を緩め、「さっ、あなた」と肘で旦那の横腹を鋭利に突っつく。この妻ハラに夫はシャキッ』

 

◎『時間はまるで流しそうめんのように、時々竹の節に突っ掛かりながらもサラサラと流れて行く。ああ、504号室というそうめんが箸に絡まな~い!』

 

◎『首を傾げる不動産屋、これはスマンコッチャと思った爺ちゃんが丁寧に追加説明する』

 

◎『責任者の笠鳥は「物語の泉、その504号室を探しましょ」と手打ちしたのだった』

 →手打ちにする、の使い方が不思議です。

 

◎『それにさりげなく笠鳥課長が「毎日妄想だらけで…、文学賞まちがいなしですわ、オホホ」とおっ被せる』

 

◎『「実は訳ありでして、ここに住まわれた作家さんは大概妄想の果てに、推理小説の実証をと、ご自身が犯人になられてしまいまして…、今は不幸にも、終の棲家、監獄504号室で暮らされてるみたいですよ」』