No.162【あだ名】総評
時空モノガタリさんでは、コンテストの入賞作・最終選考作に選評と総評が公開されています。また、コンテスト全体へのコメントもあり、傾向を掴むことができます。
各評価ですが、基本的に褒めて伸ばす、良い部分を見つける、作者の意図を汲む、という方針が感じられ、読むことが楽しくなる内容です。また、選ばれている作品にマイナスイメージを抱かせることなく、期待を持って読むことができる点で、大変な配慮がされていると感じます。こういったコンテストサイトはなかなかないのではないでしょうか?
今さらですが、2018/10/22~2018/11/19で受付をしていた第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】の総評をメモして、今後の読み方の参考にさせていただこうと思います。
1 コンテストの傾向
皆さまあけましておめでとうございます。2019年もよろしくお願いいたします。今回はお題に無理に合わせたような作品がやや多かったかもしれませんね(確かに難しいお題だとは思いますが)。「あだ名」の必然性という意味では、受賞作の『消し炭になった畑中君はゴミじゃない』は「いじめ」という独自のテーマと「あだ名」がしっかりリンクしているところが良かったと思います。数という意味ではではやや盛り上がりに欠けたコンテストとなりましたが、次のコンテストの「504号室」は投稿数が少なくとも面白い作品が多いように感じます。今年も量よりも質の高い作品を期待しております。
※太字部分は当サイトにて強調
2 入賞作品
名探偵のナミダ
18/10/31 コメント:2件 若早称平
兄のツヨシが、義姉であるナミの子供時代のあだ名をパスワードにしていたというエピソードがテーマをうまく生かしていて、直接的な言葉よりもナミへの愛情の強さを印象的に物語っていると思います。また主人公の「私」とナミさんが互いに思いやっているのが感じられるのが素敵で、亡き夫を思うナミの気持ちが伝わるラストがとても胸に迫ってきました。
消し炭になった畑中君はゴミじゃない
18/10/22 コメント:4件 クナリ
テーマをうまく生かしながらいじめにあった者たちの内面を丁寧に描き出していて、強い印象を残す作品でした。焼却炉の炎と熱が彼らの怒りと悲しみを代弁しているようで、さらにそれが「ゴミ」というあだ名とも重なっているために、説明的ではなく読み手に直接訴えてくるものがあると感じます。登場人物の発言にもそれぞれリアリティを感じました。「生きていたいけど死にたい」という、矛盾した感情を抱かざるを得ない状況には胸がいたみます。悲惨な状況であるはずなのに、不思議とどこかエンターテイメント性やユーモアさえも漂わせているようでもあり、そのためか重くなりすぎず読後感がサラリとしているのが印象的でした。
3 最終選考作品
ミセス・スイートポテト
18/11/19 コメント:2件 冬垣ひなた
ふかし芋のように素朴な温かい家庭の雰囲気が伝わってきて印象的でした。コンプレックスを長所に感じさせてくれた正幸は、塩味の混じった芋のようにちょうどいい加減で心を温めてくれる相手だったのですね。
八重歯
18/11/19 コメント:2件 そらの珊瑚
八重歯の悩みの詳細なエピソードによって、少女らしい悩みや母親の寂しさなどが具体的に書かれているのが良かったです。そういえば昔は八重歯のアイドルもいましたが、最近は整った歯並びの美人がもてはやされていて、なんとも時代の移り変わりを感じますね。
僕の子猫ちゃん
18/11/18 コメント:2件 南野モリコ
成長とともに幼馴染との距離ができてきて、しだいに気楽に名前を呼べなくなってゆく寂しさが切ないです。お題を通して不器用な恋心を描く努力が伝わってきて、好感が持てる作品でした。
KYのNYの山田くん
18/11/01 コメント:2件 三明治
奇天烈な名前の転校生を迎えたクラスの反応が面白かったです。特に先生が、戸惑いつつもなんとかクラスをまとめようとする必死さがコミカルで、個人的には好きでした。
すき間くん
18/10/31 コメント:3件 吉岡幸一
スライムのようにすき間に入れるという地味な能力自体が面白く、その能力を隠し再びひっそりと生きる男の姿には、哀愁とともに微かにユーモアが漂っていました。しかし彼自身はこの一件があろうがなかろうが根本的には変わっておらず、ヒーローのように特別なものと平凡なもの、その二つがさりげない顔で共存していたのが印象的でした。
できない思春期にいる私
18/10/27 コメント:1件 悠真
コメント欄の指摘通り、「私」と「ゆっきー」とが同一人物だとわかるまでは確かに少々分かりにくい構成となっていますが、最後まで読むとなるほどと納得させられる仕掛けではありました。他人に対して必要以上に気を遣い家族にストレスをぶつけ、結果的に自己嫌悪に陥るという悪循環はきっと誰でも経験があることでしょう。そんな自分を客観的に観察しつつ葛藤する不器用さが印象的でした。
あだな
18/10/26 コメント:4件 こぐまじゅんこ
子供の素朴な疑問をシンプルな言葉で表現しているのが新鮮で腹に落ちるものがあり、「わかんない」と言い放つ子供の素直さにクスリと笑えました。わからないことが多いから、子供にとって世界は新鮮さと輝きに満ちているのかもしれませんね。
ミィコ
18/10/22 コメント:2件 荒井文法
「二浪」と嫌味なあだ名で呼ばれる飼い主「ゴウ」の、反抗的な言葉とは裏腹な寂しさが漂う姿が印象的でした。動物視点ならではの素朴な観察が面白いですね。
猫に恨みはないけれど、涙滴る川になる
18/10/22 コメント:2件 荒井文法
動物の虐待のニュースを聞くと心が痛みます。あだ名だろうが本名だろうが、そんなことは猫には関係がなく、愛情をくれる相手がやはり一番なのでしょう。