時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】

1 題名 

ぽんっ

2 作者 井川林檎さん
3 投稿 19/01/31
4 書出 『 「それで。検査結果によっては、おろすの」』

『産科は混む。待ち時間だけで、どんなに疲れることか。』という一文に臨戦態勢というか……覚悟のほどがうかがえる主人公の力強さがうかがえる作品でした。

 

本作は、妊娠した主人公が出産すべきか否かを悩んで、結果として産むと決意するお話です。

 

……個人的に感想を書きづらい作品でした。

 

出生前診断の是非とか関係なく、妊娠・出産について悩む、というのは、機会を持ち得る人ならではの悩みですね。こういったピンポイントさを時々感じます。

 

そういう意味では『朝が来る』(辻村深月文藝春秋,2015.)は非常によくできた作品でした。作中の登場人物の成長……というか変化がしっかりと読者に届く構成が素晴らしい作品でしたね。

 

本作を読んで、明るさを感じないのはなぜでしょう?

主人公は『「大丈夫、なにがあっても、どうあっても、あんたを産んで育てるからね」』と力強く決意しているはずなのに、読者としてはどうしても今後に希望を抱くことができない。

 

おそらく、主人公の鬱屈した気持ちの本質が実は【弾けて】いないと感じてしまうからかもしれません。

 

主人公は障がいの有無に関わらず、子を産み、育てる覚悟をしたのでしょうが、結局、主人公を取り巻く環境は変わっていない。母親は、妊娠した以上、出産することが大前提であるとの意思を変えないでしょうし、夫の協力は期待できない。

 

主人公の生活状況がどういったものなのかはわかりません。『40間近』と言っているなかでの決意ですので、さすがに自立できない経済・身体状況ではないと思うのですが。

 

結局、主人公はそういったことを全部、後回しにして自分の中に放り込んだ気になっただけに思えてなりません。だから、作品を読んでからどうもすっきりしないのではないかと。

 

無論、妊婦にそんな何でもかんでも考えさせるなよ、ということはわたしも思うんですけど……そもそも、子どもを希望するかどうか夫婦での認識のすり合わせの過程が謎なんですよね……『結婚の条件のひとつに、「子供は無理」というのがあった。』とあるんですけど……コウノトリが連れてこない限りは、良識ある夫婦であればどうにかできる点じゃないかと思うんです。

 

もちろん、夫婦のどちらか、あるいは双方に良識がない、とか、保健体育の知識がない、というなら別の話です。その場合は、散々悩め、と思います。勉強しろ、と。

 

一方で、主人公が配偶者以外に無理強いされた妊娠であればさらに別の話なんですけど……え、そうなんですか?