時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】

1 題名 

僕から未来のおくりもの

2 作者 273さん
3 投稿 19/02/26
4 書出 『一通の手紙が届いた。』

 

騙されまいと身構えながらも好奇心を抑えられない主人公の期待感が滲み出る作品でした。『世の中には辛いことばかりだ』と嘆息する主人公の背景も気になるところです。

 

◎あらすじ

 主人公は未来の自分から手紙を受け取る。メッセージのほかに『「市立第2新緑公園 西門前 16時42分」』とメモがあり、そこに駆けつけてみると誰もいないかと思いきや本原さんがいた。

 

◎感想

 主人公に絶妙に魅力が感じられない。

 

 これは何故でしょうか?

 自問自答したり、捻くれたり、斜に構える主人公というものはいくらでもいそうなものですが、別にそれだけで魅力がないわけではないでしょう。

 

 そこで、「主人公の魅力のなさ」それこそが本作の主軸なのではないかと考えました。

 

 まず、本作からは、主人公の年齢はわかりません。年金の話をしているので、20歳以上なのかもしれません。親の受け売りならば、もっと幼いこともあり得るでしょう。ただ、主人公がやたらと「過去」を語りたがるのを考えると、やはり大学生くらいが妥当な年齢ではないかと推測しています。

 

 では、主人公の語りたがる過去とは何なのか? そこに、主人公の魅力のなさの原因があるのではないか。早速、関係しそうな文章を以下に抜き出します。

 

『もしかすると僕は未来でも手紙を送る友達が見つけられないらしい』

『まだやる気のみなぎっていた頃の僕が』

『悪ふざけした昔の同級生が、僕のリンチでも企んでいるのだろうか?』

『僕が冷静な人間で毎日を真面目に生き、常識という名の安全牌を踏めるような男であるならば良かった』

『世の中には辛いことばかりだ』

『世の中そんなに、面白くは出来ていない。きっとこれからも、過去を悔やみ、現実に疲れ、期待のできない未来に向かって僕は生きていくのだ』

『これから馬鹿な僕に対する罵倒と嘲りと溢れんばかりの侮辱の言葉が産み出されるのだらう』

『教室にいる彼女は、こんなイタズラを仕掛けるタイプには思えなかったのだが』

 

 主人公の現状をまとめてみましょう。

 ①友達がいない

 ②やる気がない

 ③真面目に生きていない

 ④常識がない

 ⑤過去を後悔している

 

 こんなところでしょうか。気になるのは『悪ふざけした昔の同級生が、僕のリンチでも企んでいるのだろうか?』の一文です。ちょっと読み解きづらい文章ですが、一面的には「主人公は、かつて同級生に悪ふざけをし、その意趣返しに私刑を企図されていることを警戒している」とも読めます。(もちろん、「悪名高かったかつての同級生が、今度は主人公を標的にしている」とも読めます)

 

 つまり、主人公は仕返しにリンチを危惧するほどの『悪ふざけ』をしたことで孤立しているということになります。要は、かつてイジメる側の人間だったと。そう考えると、何気なく書き添えられた、『僕はヤギではないので読まずに食べるなんてことはしない』という言葉も意味深ですね……

 

 おい八木ー

  おまえヤギなんだろー

   読まずに食えよ。プリント。

    げぇ……ほんとに食ってるよ。キモ

 

 ……みたいなね。嫌ですね。ほんと。

 

 で、そんな鬱屈した環境ながらも主人公にとっては『悪ふざけ』の域を越えないわけですよ。そういうところが、魅力の減少につながっている……のかなあ? 妄想と憶測だなあ。

 

 しかも作中だと、本原さんは惚れてるっぽいんだよなあ……