第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】
1 題名
雨つぶ
2 作者 吉岡幸一さん
3 投稿 19/02/13
4 書出 『午後になってようやく雨があがった。』
面白かったです。
雨上がりの庭先を丁寧かつ静かに描写された巧みさに唸りました。雨垂れが溜まることに意義を求めるように、じっとみつめる主人公。その思いを知ってか知らずか、闖入する野良猫。『猫の額』に暗示されるかのように、小さな世界で起きる突発的な出来事も、どこか滑稽に思えてきます。
◎あらすじ
本作は、病気療養を理由として二年前に片田舎に引っ越してきた主人公が、縁側で近所の人と会話したり、野良猫を眺めたりするお話です。
◎感想
3度読んで、面白いかもしれないと思うに至りました。
2000字上限ゆえに、キャラクターの造形、作品設定、セリフで終始してしまいがちな超短編にあって、場景描写がきちんとされていた点に好感が持てました。
本作を読んでも、主人公がどうして片田舎にいるのか、山中さんが何者なのか等の答えは得られないのですが、実際、それらはどうでも良い情報なのでしょう。重要なのは、主人公が雨垂れをただ眺めている。そんな時間を過ごしている。ということだけなのだと思います。
あと、金目鯛を猫がすぐに口にしないところが個人的には好みでした。以前、住んでいた地域で金目鯛が水揚げされていたのですが、地元では割と猫またぎの魚扱いだったので、田舎らしさも相まって懐かしくなりました。