第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】
1 題名
モテバブル崩壊
2 作者 若早称平さん
3 投稿 19/02/13
4 書出 『校門をくぐるその瞬間に、彼は無言で私に手紙を押し付けてそのまま走り去っていった。』
赤面症が可愛らしい主人公の翻弄される様子は気の毒なようであり、一方でそれもまた愛嬌があるようにも感じられ、興味深く読ませていただきました。主人公をずっと見続けていた幼馴染君はさぞ冷や冷やしたことでしょう。
◎あらすじをば…
本作は、人前ですぐに赤面してしまう地味なヒロインが、『スクールカーストの頂点付近に位置する武元さんの鶴の一声により』一躍脚光を浴びてモテまくるものの、文化祭でパニックに陥った上、告白してきた後輩男子に『「やっぱなかったことにしてください」』と告げられ、失意のドン底に突き落とされながらも、幼馴染の男子に「俺がお前を見てるよ」と告げられてキュンッとするお話です。
◎感想なぞを…
この作品を武元さん視点で描くと【モテ期をプロデュース!】って感じでしょうか?
彼女は仕掛け人としてかなり優秀ですよね。
本作を一見すると、地味子ちゃんをおだてて最終的には皆の前で恥をかかせてやるゼ! という作品に思えたんですけど、実際、そんな事実はどこにも描かれていないんですよ。
これ不思議ですよね……なんでそう思ったんでしょう……幼馴染の不穏な発言のせいかしら? 思い込み? 偏見?
とにかくよく読めば、武元さんはヒロインをすごく評価しているんじゃないか、と。
そう思うわけです。
そう思いながら、感想を書きます。
文化祭の実行委員がどれほどの困難な役割かわかりませんが、「なれ」と言われて、なれる人ってそうそういないでしょう。実際、『校内のあちらこちらでトラブルが発生し、対応に追われる。「分身の術が使いたい」』とあるとおり、ヒロインは仕事をこなしているわけですから、その辺りの適性を見抜いていたわけですよ。武元さんは!
しかも『藤吉ちゃん』という呼び名をクラス全体で共有させるわけですよ。仲間内だけでなくてクラスで公認になる呼び名! しかも好意的に! もう、プロデューサーとしての仕事でいえば、これだけで値千金ですよ。武元さんすげー!
そして、ヒロインに『ドッキリ番組の仕業かと勘ぐりたくなるくらい次々と告白が続いた』という具合にファンが急増すれば『戸惑う私に武元さんは「完全にモテ期入ったね」となぜか興奮気味だった』と、「いいね!」するくらいにエールを送る。自分の出来事のように興奮しながら。アドバイスもするし、主人公の発言にも「面白い」といって笑顔をみせる。
ただ、唯一の誤算は、閉会式の挨拶の代打をやらせたことだったんですねぇ……
まだ、ヒロインはそこまで舞台度胸がついていなかったんですよ。
緊張で声が裏返って、観客に笑われる。『小学生の頃から散々笑い者にされてきた』というトラウマが蘇って、ヒロインはマイクを捨てて逃げ出してしまう……
この次の場面ですよ!
本作では、ヒロインの帰路にカメラが移ってしまうんですが、彼女が逃げ出した後の閉会式で、一体何があったのか!?
武元さんが激昂したんじゃないかなあ、と!
舞台を走り去るヒロインに声をかけようとするも、その手は届かない。
唇を噛み、己の不甲斐なさを呪う武元さん。
なお会場に響き続ける嘲笑。
床に落ちたマイクを拾って、舞台に立つと彼女は大きく息を吸う。
うちの、
藤吉ちゃんを、
笑うなあああああああああああああ!!!
そんな……そんな展開が繰り広げられていたなんて……(いない