第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】
1 題名
膨らんじゃった絶望
2 作者 繭虫さん
3 投稿 19/02/15
4 書出 『「クラスの男子、全員殺そう。」』
面白かったです。
話の締め括り方を特に評価したいです。過激派発言で始まって、よくわからないまま読み進めたのですが、その熱情の根源が何であるのかをのぞかせる文章が巧みだと思いました。
◎あらすじ
本作は、放課後の教室で幼馴染が唐突に口にした『クラスの男子、全員殺そう』という言葉を巡って、中学生の主人公が同級生の成長に直面するお話です。
◎感想
面白かったんです。
ですけど、いかんせん文章が少し読みづらくて……
内容を正しく掴めているか不安が残りました。個人的に理解した内容の方向性は下のような文章です。行間配慮で空けていらっしゃった空白行を埋めています。(全文メモっていませんが……)
「クラスの男子、全員殺そう」
放課後の教室で、箒を片手にミサキが呟いた。
「ンッフ」
掃き掃除をしていたユウは、思わず妙な笑い声を上げてしまう。「なにそれ」と顔を上げる。
「……わりと本気なんだけど」
ミサキが憮然と窓の外を見やる。
二人は幼馴染だ。
小学校では親友だった。
今は、よくわからない。あまり口をきかなくなったな、とユウは感じていた。
中学生になって、同級生の女子達の変質をユウは目の当たりにしていた。女っぽいとでもいうのだろうか。可愛いらしさこそが最優先の生き物。下着も文具も、己すらも。綺麗に整えられた眉毛と髪の毛。クラスの女子のほとんどが、体も心もいろんな所が膨らんで、弾けそうだ。
ミサキはもう変な笑いかたをしなくなった。一緒にセミの脱け殻を集めて笑っていた彼女はもういない。ユウは自分を取り巻く環境の急激な変化に着いていくことができないでいた。
「全員だよ。全員殺す」
ミサキが繰り返す。荒唐無稽な幼稚な言葉。自分からずっと遠くに離れたミサキが、少しだけ、かつての彼女に戻ったようにユウには思われた。
だからつい、話に乗ってしまう。
「じゃあ、誰から?」
「まず高橋」
~(中略)~
ただ、ミサキの行き場のない殺意だけをユウは受け取り続けた。
「うん、いいじゃんね。男子なんか、全員退治しちゃおう」
相槌を打ちながら内心ユウは首を傾げた。
中学生になったミサキにとって男子は敵だ。奇声を上げ、女子の名前を乳房の大きい順に並び替えたりしている生き物のことだ。彼女は、そんな連中を排水溝に溜まった髪の毛を見るような目で見ている。殺意を抱くのもおかしくない。
しかし、目の前の彼女の奇妙さをユウは感覚的に理解していた。
なんだかおかしい。
男子なんか絶滅しろという言葉の底が見えない。
何かが詰め込まれている。彼女の中に。いっぱいに。
はち切れそうになっている。
「……ねぇ。なんか、あった?」
最初からこの一言だけで良かったのかもしれない、と口にしてからユウは気づいた。張りつめた糸がピンッと弾けたように、ミサキが操っていた「ミサキ」という操り人形が脱力していく。
残ったのは、俯いたままの操り役だった。
「ユウ」
「うん」
「あのさ」
「どした?」
「あの、さ……」
どうしよう、という声がびっくりするほど幼くて、目の前の彼女がうんと小さな女の子に感じられた。
やっぱり『親友』だ、と思った矢先に彼女が顔を上げた。
「……わたし、好きな男の子が、できた」
無理矢理笑ってみせる顔が、ひどく大人びて見える。男子なんていなければいいのに、と続ける幼さを帯びた声とのズレでギシギシと軋んでいるかのようだ。
ひどく温度の籠った瞳を前にして、ユウには言葉を継ぐ術が見当たらなかった。