時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】

1 題名 

2 作者 ひーろさん
3 投稿 19/02/10
4 書出 『「わたし、雨が大っ嫌いなの」』

 

自分勝手のように振る舞いながらも優しさが滲む彼女の態度が魅力的でした。また、彼女の不機嫌さの理由に行き着いた主人公の洞察力に感心しました。

 

◎ざっくりとあらすじ

本作は、雨の日になると不機嫌になる彼女と、対照的に雨の日が大好きな主人公が、「雨の中を彼女と歩きたい!」という主人公の一念で外出し、道路の真ん中で踏み潰される蛙に心を痛める彼女を主人公が励ますお話です。

 

◎感想をひとこと

『ぼくは、半ば強引に彼女の腕をつかんで、玄関まで引きずった。』とありますけど、かなり強引ですよね……正直、引きました。

 

ヒロインの「雨の日嫌い」は筋金入りです。

以下はそんな彼女の不機嫌な描写です。

 

『店を予約までしていたにも拘わらず、予報外れの雨を理由に、外食は中止となった』

『湿気でくるくるした髪を掻きむしる』

『夕飯について訊ねると「あなたが何とかしてよ」と不機嫌なご様子』

『彼女はソファーで眠っていた。イヤフォンを耳に突っ込んで、外で響く雨の音をシャットアウトしている』

『彼女は怒っていた』

『やり場のない怒りを抱えながら、何かにじっと耐えている』

 

……ここまで書かれていると、不機嫌というか本当に雨の日が辛いんだろうなあ、と読者としてはヒロインをそっとしておいてほしくなるんですよね。

 

にも関わらず、主人公は、『ぼくはといえば、雨が大好きだった』、『こんなすてきな雨の日に、二人で歩きたい』という自己都合で、『彼女のイヤフォンを抜き取り、揺り起こし』て外出をうながします……うながす、というか、引きずり出します。

 

引きずる、て……

 

でまあ、ひとしきり雨の日の素晴らしさを語って、ヒロインが雨の日が嫌いな理由は『道路の真ん中に、小さな蛙の死骸が転がっていた。雨の日によく見る光景』のせいだと断定します。この推理がすごいなあ、と思うんですが……ピョン吉的なTシャツを彼女が着ているだけで、その答えに辿り着いたように本作からは見えます。(もちろん、何かしらの背景があるんでしょうけど)

 

最終段落で、何となく二人の雰囲気が良くなった風な描写があるんですけど、どう考えても、ヒロインが我慢して主人公に付き合っているようにしか見えないわけで……

 

きっと、主人公も、ヒロインと自分の好きなものを共有したいと思った故の行動なのでしょうが、作品を通じて、主人公の独善的な面が前面に出てしまっているように思えて残念でした。

 

◎ついでの妄想

冒頭の『「わたし、雨が大っ嫌いなの」これが、勇気を振り絞って告白した直後の、彼女の第一声。』の箇所ですが、初めて読んだ時はヒロインが告白したのかと思ったんですよ。でもこれ、主人公が告白したんでしょうか? 主人公の告白を受けて、彼女がこう返したんでしょうか?

 

「好き、です。わ、わらしと、付き合ってくだひゃい……!」

 消え入りそうな言葉を代弁するように、彼女の耳が真っ赤に染まる。衝撃を耐えるようにぐっと握った小さな白い拳が、紺色のコートの袖からわずかにのぞいていた。

 僕はといえば、急に薄くなったかのような空気を補おうと、口をパクパクさせていた。だから、僕も好きです! 前からずっと好きでした! という想いの限りのセリフは全く出てこず、代わりに「はい」とだけ喉が鳴る。むしろ、はい、という音のついた呼吸だった。

 彼女が目を見開く。大きく息をはいて、口元が緩んでいく。細い肩から力が抜けるのが見て取れた。

 つられるように息をついたところで、不意に慌てたように彼女が、あ、でもね……口ごもるので、緊張が再び僕をおそった。

「わたし、雨が大っ嫌いなの。雨の日なんかは機嫌悪くなるけど、平気?」

 

こういう流れだと思ったんですよ。

ヒロインが主人公の告白を受けて高飛車に応対するのもいいですけど、こうやって、恐る恐る条件を付け加えるシチュエーションもいいですよね。

 

だから何だ、て話ですけど。