時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】

1 題名 

午後の魔法使いたち

2 作者 たまさん
3 投稿 19/02/17
4 書出 『その子はいつも目を閉じて本を読むのだった。』

 

思わず首を捻ってしまうような症状を前にして、ひるみながらも投げ出さない主人公の意気込みが感じられました。利用者を満足させるレファレンスサービスは図書館司書の本懐とでもいうべきもの。『祐子』さんの相談に主人公が真摯に取り組む日が早くくれば良いと思いました。

 

◎あらすじ

 主人公が司書として働く図書館には、目を閉じて本のページをめくる16歳の少女がいる。その行動の理由を問いただすと『目はどこも悪くないけど、字だけが見えない』と告白する少女。主人公は彼女に『なんでもいいからわたしに相談してほしい』と申し出、少女から本のタイトルを読み上げてくれるよう頼まれる。

 

◎感想

 主人公と少女の距離感が掴みきれないです。

 

 多分、主人公視点で彼女のことを『祐子』って呼び続けているからなんですよ。冒頭の文章だけは『その子』なんですけどね。彼女、などの人称を使わないせいか、ずーっと『祐子』を連呼するんですね。そうするともう、すごく親しい気持ちになるんですけど、実際、言葉にすると『浅田さん』なんですよ。

 

……この内心と実際のギャップに二人の関係性のヒントがあるんでしょうか? それは見つけられませんでした。残念。

 

 主人公が「基本誰でもファーストネームで呼んじゃうわ」ってタイプなら飲み込めるんですけど、『恋人はいない。欲しいけど欲しくない。もうそんなに若くはないけどまだ若い。どこにでもいてだれも気にしない女……それが私の理想なのだ』と語る姿とは少しかけ離れて思えるのは偏見でしょうか……ちなみにその理想を叶えるために『だから私は司書になった』というのは……ちょっと……看過できませんね! TRCを侮るなかれ。

 

 

 さて、本作の主軸なんですが、文字だけ見えない女の子が、発作のように文字が見える瞬間があり、その原因を模索している、という構成です。ちなみにこの時見える文字は『ときどき弾けたように目がひらく』、『目の前に虹のような字が浮かんで』、『雨の日はほとんど目がひらかなくて』という状況と条件が付随することはわかりますが、読んでいる(めくっている)本の内容かどうかはわかりません。つまり、彼女は何らかの超常現象的な文字を幻視している可能性もあるわけです。

 

 まず、設定に疑問を感じます。

 文字だけが読めない、認識できない、という症状は実際に存在するらしいのでそこはどうでもいいのですが、なぜ、彼女が図書館に来ているのかがわかりません。『あたしが図書館に行くのは、目がひらくようになるための訓練』と言っているんですが、別に訓練になっていないんですよね。もちろん、最終段落のやり取りで、本のタイトルを主人公に確認してくれるよう依頼しているので、目が開く本・目が開かない本に大別して、それぞれの共通事項を探る、というのも手だと思うんですが、じゃあ、今までは何をやっていたのか。それが謎です。

 

 ついでに言うと、結末も納得できません。

 主人公は少女の症状を聞いて、『私には手に負えない話しにちがいない』と思うわけです。ところが見て見ぬフリはできないとばかりに『なんでもいいからわたしに相談してほしいの』と申し出ます。

 

 その上で、少女が『タイトルだけ読んでもらっていいですか?』と頼むと、『ちょっと厄介なことになった』と思いつつ、古今東西の数知れない本が書架にならんだ図書館には、様々な魔法使いがいて、祐子の目を治してくれる親切なやつがひとりぐらいはいるはずだった』と唐突なメルヘンに没入し、締め括りに『もし、いなかったら……司書なんて辞めてやる』と宣言します。

 

……できないですねえ。看過が。