第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】
1 題名
GIFT
2 作者 R・ヒラサワさん
3 投稿 19/02/18
4 書出 『見覚えのある女の名で夫あての荷物が届いたのは、火曜日の夕方の事だった。』
勤め先で共通の話題を持てる同僚がいないのはきっと辛かっただろうと感じました。二人が引き続き一緒に暮らしていける結末でホッとしました。
再婚相手である冴えない夫に仕事先の女性から誕生日にネクタイが届いたので、主人公もネクタイを買いに行く。夫は女性に『お陰様で、上手くいきました』と伝える。
本作の魅力は、登場人物それぞれの思惑はあまり上手くいっていないのに、本人達は上手くいっていると思い込んでいることを、読者だけが知っている、という構成だと思うんですが、いかがでしょうか?
まず、各登場人物の思惑をざっくり記載します。
①主人公
経済的に自立できない現状に危機感を持つ。夫が他者と懇意にすることがないよう料理に手間をかけ、ネクタイを贈る。
→夫が「仕事先の女性に会わない」約束をしてくれたことで、上手くいっていると思っている。
⇒翌日、夫は約束を破っている。
②夫
妻との『結婚当初のような感じ』を取り戻そうと仕事先の女性と画策し、結果ネクタイを2本もらう。
→妻が声を掛けてくれたので上手くいっていると思っている。
⇒夫の経済的不安は解消しておらず夫婦関係は不安定な状態。
③女経営者
特に接点のない夫に、妻を燃え上がらせる方法を伝授し、実践する。
→夫から『上手くいきました』と報告を受けたので上手くいっていると思っている。
⇒上述のとおり、夫婦は結婚当初の感じを取り戻せていない。
要は金なんですよ(ぇ
まずもって、夫に対する主人公の評価は明確なんです。金と性格です。それを決め手に再婚したと断言しています。そんな夫の評価を以下に挙げます。
・『タツヤは女性を惹きつける魅力の持ち主ではない』
・『『空気の様な存在』。いい意味ではなく、悪い意味でタツヤはそれだった』
・『転職後、(中略)収入は見込めないし、昇給も期待できなかった』
・『アサミにとってタツヤの魅力は真面目さだけになった』
・『アサミはタツヤから離れてゆく心を感じずにはいられなかった』
夫の転職により金銭面の不安が生じたことで、夫婦関係は冷めていきます。(というか、主人公が一方的に冷めていきます……)
そこで彼女はどのような行動に出るか? 『アサミはパートに出ることにした。』と続きます。完全に独立する準備です。
ところがパート先では同僚が子育て世代ばかりで、子どものいない主人公は疎外感を覚えます。仕事場にいることが居た堪れなくなり、パートを辞めることにします。
ここで、主人公には6つの選択肢があります。
① 子どもを授かってパートに復帰する。(養子含む)
② 子どもの話題がなるべく出ない職場を探して働く。(在宅含む)
③ 子どもの話題を気にしない思考を鍛えて働く。
④ 働かずに夫と暮らす。
⑤ 働かずに離婚する。
⑥ 働かずに別居する。
自力で金銭面の問題を解決するためには①~③を選択しないといけません。現状維持であれば④です。主人公はこれを選びます。でも心は離れているわけです。なぜか? お金がないからです。
そんな時、低評価著しい夫の周りに女の影がチラつき始めます。
これまでの流れを思うと、完全に冷める時が来たな……と思うわけですが、そうはなりません。
主人公は夫のためにせっせと高額なネクタイを購入し、料理を作り、ワインをあけます。お金がないのに、です。というかパートを辞めざるを得なかった時に、既に主人公の頭には「自分は働けない。働いたら負けだ。夫の収入に頼るしかない」という思考ができあがっているかのように、平身低頭とでもいうかのような態度に出ます。『無くてはならない大事なもの。アサミは改めてタツヤの事を想った』という文章にもそれが滲み出ます。
それを見て、夫は『上手くいきました。結婚当初のような感じです』と満足げな様子。協力者らしい女経営者も『女って他人に奪われると思うと、結構燃え上がる人が多いのよね』とどこかズレたコメント。
話筋は理解できるものの、エピソードを追っていくと首を傾げてしまう、そんな作品でした。