時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】

1 題名 

挨拶の品

2 作者 R・ヒラサワさん
3 投稿 19/02/19
4 書出 『半年ほど空いていた隣の部屋に、新しい住人がやって来たのは、日曜の午後の事だった。』

 

隣人からの不釣合いなほど高価な返礼品。口止め料なのか、あるいは……不可思議なおくりものに主人公が悟った『意味』とは何だったのか。そんなことが気になる作品でした。

 

◎あらすじ

 引っ越してきた隣人宅から聞こえる大きな音。そのたびに主人公は過剰なまでのお詫びの品を手渡され、最終的には高級菓子と札束を手にする。やがて大きな音はなくなり、隣人が大きなスーツケースを運んで話が終わる。

 

◎感想

 

 時事も踏まえた内容で、引越しの挨拶や過剰なお詫びの品など、コンテストテーマを活かされた仕上がり具合も上々の作品だったんじゃないでしょうか。

 

 省エネや何やかんやで建物自体の気密性が高くなる昨今。防音・遮音は完璧で、家の中で騒いでも隣近所には聞こえない。住人も聞こえても知らんぷりするし、個人個人が自分の世界に閉じこもっている――

 

 そういった世情が反映されていると思いますが、一方で本作では積極的に関わっていこうという側面も見え隠れします。というよりも、主人公の隣人である『二十代後半ぐらいと思しき綺麗な女性』の受けてきた教育や育った環境、培った常識によるところが大きいのでしょう。

 

 最近では珍しくなった引越しの挨拶をするし、迷惑をかけたと思えば詫びに参上する……何か後ろ暗いことがある場合には、口止め料代わりの現金も使う。

 

 正直なところをいえば、『札束』を渡すほうが危ない橋を渡るという結果を招くと思うんですよね。事実、主人公は『喧嘩の物音ぐらい』、『きっと家具でも動かしている』と思っているので、そこに「黙っていてくださいね」と言わんばかりの品物が渡されたら「あ、何かあったのかしら?」と勘繰ってしまう。そもそも、自分の身のことを考えれば、通報一択なのだと思うんですが、そうはならないわけです……

 

 これは、隣人女性の思考が相当、一般常識からかけ離れているということを表現しているのかもしれません。喧嘩の物音が響けば「迷惑をかけてしまった」、と感じるし、もっと大きな音が立てば現金も渡す。こんなこと普通はしないんですが、彼女はなぜかやる。

 

 しかも隣の部屋に住んでいる主人公も危機感を抱くことなく、札束を受け取っている。主人公って男なんでしょうか、女なんでしょうか。それによっても、作品の見え方は変わってくると思います。