時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】

1 題名 

ねずみ

2 作者 浅月庵さん
3 投稿 19/02/26
4 書出 『午後十一時過ぎ。』

 

帰宅したら裂傷のある死体が横たわっている、というのは血の凍るような恐怖体験ですね。昔話の『火車』のような結末かしらと思っていたら、猫の恩返しかどうかという内容で興味深く読ませていただきました。

 

あらすじ

 独り暮らしの自宅に他殺体が相次いで投げ込まれたので、主人公は実家に戻って農作業をする。事件の真相は不明だが、遺体には獣に襲われたような裂傷が見られたことから、かつてエサを与えた野良猫からの恩返しだったのではなかろうかと主人公は空想する。

 

感  想

 

 野良猫と妖怪のつながりが弱いと感じました。

 

 もっと、主人公の周囲や猫そのものに不可思議さを演出しないと、そこには辿り着けないと思います。

 

 例えば、死体が投げ込まれた日に大きな獣の鳴き声を聞いた人がいる、とか。

 実家に戻って親族と「猫は恩を返そうとするからねえ」というような話題が出る、とか。

 愚痴をこぼしている間、猫はじっと耳をすませているようだった、とか。

 殺される数日前から上司の足元に猫がいたように錯覚した、とか。

 

 とかとか。

 

 2000字である以上、どこかで話を閉じなければならないんですが、主人公の思考に読者が追いつけないと、なかなか作品そのものを味わうことができないので、ここは丁寧に描写してほしかったです。

 

 加えて、いくつか気になる表現がありましたので以下に挙げます。

 

『玄関扉を開けるやいなや、私は思わず鋭い悲鳴を上げたーー部屋のベッドの上で、何者かが倒れているのだ』

 →『玄関扉を開けるやいなや』とありますが、タイミングが早すぎるように感じます。仮にワンルームだったとしても、玄関からすぐにベッド上を確認できる配置なのでしょうか? また23時過ぎの帰宅ですから、部屋の照明は? など描写をさらに丁寧にお願いしたいです。

 

『自宅に帰るまで私は仕事をしていたので、勿論アリバイはある』

 →この情報は削ってもいいのでは? 読者は知ってますし。

 

『男の首から胸にかけて大型肉食動物の爪のようなもので薙ぎ払われた傷が存在していた』

 →「薙ぐ」は基本的に「横に払って切る」動作です。『首から胸にかけて』は遺体が横たわっていたとしても基本的には縦方向です。『爪』に対応させるのであれば、掻き裂く、であるなどはいかがでしょうか。

 

『のだ』が使われる一部の箇所の不自然さ。

 →『何者かに殺されていたのだった』、『私が包帯を巻いてあげたのだ』、『その子にあげていたのだった』、『一瞬で萎えてしまうのだ』などは『のだ』でなくても良いと思うのだ。

 

『昨日横井忠文が亡くなった私の部屋へ、今度は上司の死体が同じ殺され方をして放り込まれていた』

 →猫=妖怪、論でいけば猫は超常的な力で主人公の居所を突き止めているわけですから、恩返しであればホテルに投げ込むんじゃないでしょうか? しかも、ホテルに入る間際に主人公と猫は遭遇してますし。

 

『荒唐無稽な考えではあったが、それが一番腑に落ちるような気がしてならなかった。

 ーーその証拠に私は、すっかり猫が怖い。』

 →『その証拠に』が何の証拠なのかがわかりません。「『かもしれない』、『荒唐無稽』なんて予防線を張ってるけど、主人公は本心で猫の仕業だと思っているんだよ。だから猫が恐くなっちゃったんだ」ということなんでしょうか? 証拠?