第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】
1 題名
復讐の板チョコ
2 作者 霜月 秋旻さん
3 投稿 19/02/18
4 書出 『この高校一のイケメン教師と言われている速水ともみち。』
想像するだけで思わず自分の歯が痛くなるような内容でした。抱いた怨みを溜め込まずに、1か月で復讐してみせたトモカさんの行動力に頭が下がる思いです。
◎あらすじ
本作は、バレンタインデーにチョコレートをたくさんもらう男性教師が、ガールズバーで鋼入りの板チョコを噛み締めて、歯が折れる様子を主人公が眺めている作品です。
◎感想
復讐劇で読者に受け入れられやすい作品は、①復讐では恨みは晴らせないと主人公が悟って新たな道を見出す、か、②復讐の手段や目的が緻密であり達成した時にカタルシスを感じる、のどちらかになると思うんですよね……つまり、復讐劇ってすごく難しいように思うんですよ。
個人的には、『岩窟王』(アレクサンドル・デュマ・ペール,1844.)が好きなので、復讐、というからには徹底的にやってもらいたいですね。
その上で本作は、ちょっとよくわからない作品です。
まず第一に、主人公が語り部である必然性が見当たらない気がします。確かに主人公は今回の復讐の被害者となった『速水ともみち』氏に『屈辱』を感じているわけですが、特段、復讐に加担した経緯などは描かれていないんですよね。仕掛け人である『トモカ』さんとのやり取りや関係性もわからない。(というか、復讐されることすら知らなかったかのような描写が作品終盤に見られる)
同僚がチョコレートを噛んだ瞬間に血を噴き出す、という……言ってみればトラウマものの場面を目にしながら、自分の心情を語るでもなく、定点カメラのように場面を中継している。もちろん事前に「速水に鋼入りのチョコレートを齧らせるから、血が噴き出るかもってことでよろ」と言われて「おk」と返していたら……まあ、そういうキャラクターなんだなあ、と思うしかないんですが……なおざりな感は否めません。
さらに、『トモカ』さんの復讐の動機もすっごく薄いというか……接客業で、自分に合わない客が来店したとして、しかも自分の容姿を侮蔑して、ちくしょうこのやろうゆるせねえ、と感じるのはわからないでもないんですけど、別にそれで商売ができなくなるわけじゃないんですよね?
もちろん、速水氏が当該店舗の上客で、速水氏の評価イコール店での評価、という図式が成り立っているならともかく、一般客の言動に翻弄されて『ムカついて整形して源氏名も変えて出直して』というのは、明らかに職業選択をミスしているでしょう。そもそも容姿を貶されたから整形する、という思考が既におかしい気もするんですが。
とはいえ作品のなかでそういった、あれ、こいつら何でこんなことに自分の人生すり減らしてるんだ? という至極真っ当な疑問を主人公が抱いてくれれば、読者の代弁者として溜飲も下がるのですが……とにかく主人公の存在意義がよくわからないので、読後感がもやもやする、そんな作品に感じられました。