第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】
1 題名
君に花を
2 作者 文月めぐさん
3 投稿 19/02/26
4 書出 『あなたに贈ります、この花を』
花屋に通いつめる可憐な女性というキャラクターは古今を問わず魅力的ですね。自分のために自分が、誰かのために自分が、と花を買っていた彼女が、自分のために誰かが花を贈ってくれる瞬間を迎えることができたことはきっと幸せなことだったのだろうと感じました。
◎あらすじ
花屋で働く主人公は、毎週訪れる常連客『「カスミソウさん」』と花言葉の話題で懇意になる。バレンタインデーに白い紙袋を渡され、返礼に赤いバラとカスミソウのブーケを渡す。
◎感想
読んでいる最中、主人公が女性として脳内で再生されていました。
そして、この結末。
あれ? と思ったわたしの理解が足りないのか、あるいは作者様の狙い通りなのか……恋愛にあれこれ性別のことを言うつもりはないんですけど、作品のイメージをしやすくするためにも情報をもう少しいただければありがたいですね。
小話としてはまとまっているんですけど、何というか物足りなさも感じます。まとまり過ぎているというか……物語の起伏に乏しいといいましょうか。
例えば、山本さんはどうして『二月十三日、水曜日』に来店しなかったのか?
作中では理由が明示されていませんが、これを少しセリフで補うだけでも印象が変わってくると思うんです。チョコレートを探し回ってた、とか。ずっと悩んでいてどんな風に顔を合わせればいいのかわからなかった、とか。二日連続で行くなんて面倒だと思われるかと思った、とか。
……わたしも大概、満足できる展開をご提案できませんが、これもアリだと思うんですよね。
一方で、プレゼントするきっかけもバレンタインデーとかにこだわらなくても良かったんじゃないかなあ、と感じます。
せっかく、主人公と山本さんは気軽に話す仲になれたわけですから、もっと花の話題で終始一貫しても良かったんじゃないでしょうか?
山本さんが主人公に贈答用の花の話題なんかを聞いて……
「お花屋さんだと詳しいだろうからお花いただいたら、色々考えちゃうものですか?」
「いえ。むしろ花屋だからでしょうか。花を贈られる、なんてなかなか経験しません」
「へえ……じゃあ、ご相談なんですけど」
「なんです。改まって」
「……私、気になるお花屋さんがいるんですけど。その人にどんなお花を贈ったらいいと思いますか?」
驚いて振り向くと山本さんの真剣な眼差しに射抜かれる。急に熱くなる体温を感じながら、それなら、と何とか口を開く。
「……こちらがおすすめです」
差し出した赤いバラを彼女は嬉しそうに受け取る。そして、そっと私に差し出した。
「あなたに贈ります、この花を」
という展開はいかがでしょうか?