第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】
1 題名
ありえないプレゼント
2 作者 とむなおさん
3 投稿 19/02/27
4 書出 『3月24日のこと……』
謎の老女から手渡された物質を転移させる玉――恋人に渡して、人助けもして、さあ、これからどうなる、というところで溶けて消えてしまう。あっさりと締めくくられたスピード感が印象的な作品でした。
ヒロイン・カナは手助けした老女から、物質や人を転移させる力を持った玉を二つ受け取る。恋人のジュンに玉のひとつを渡し、ジュンはゴミとカナと踏切で立ち往生していた母子を転移させる。翌朝、玉は消えてなくなる。
子どもを寝かしつけながら思いつきで話す物語はこんな感じかもしれません。
……誤解のないように申し上げますが、決して本作を軽んじているわけではありませんので。もちろん、この作品で子どもが寝付くとは思えないのも事実ですが。
色々、腑に落ちないんですよ。
皆さんは読まれましたか? 読んでから一緒に考えてくれませんか? このモヤモヤ感の払拭方法を。SF(少し不思議)コメディとして、楽しむべきなのかなあ……
まず、話作りなんですが、ジュンさんいらなくないですか?
・老女を助けてカナさんが玉を受け取る。
・ひとつを試しに使う。
・「もうひとつはいざという時に使おう!」
・色んな誘惑が……でも我慢!
・あ、踏切で親子が轢かれそう! ここで使わにゃいつ使う!?
・あぁあ……玉が消えちゃった。でも親子が助かったんだし……いっか!
・あれ? 横断歩道でお婆さんが困ってる。助けなきゃ!
(終わり)
これでも十分、話になりませんかね。話の尻尾を、話の頭に噛ませるような感じになりますけど……ジュンさんいなくてもこの作品は成り立つと思うんですよね。そう思ってしまうほどにジュンさんの存在意義が薄い。
次に、セリフが軽いように感じる。
軽妙な会話と、軽薄な会話は全く違うものだということは言うまでもないでしょう。ただ、本作では「こんな会話するんかなあ?」というセリフのやり取りが散見されます。『「「すごーい! じゃ、ボクは普通で……」』
最後に、言動が不自然に感じる。
まず、ジュンさん。
不可思議な玉を受け取ったとします。それを渡してきたのは1年付き合った恋人です。確かに二人の信頼関係は強固なものでしょう。彼女が「海は赤い」と言えば、彼にとっても「海は赤い」のです。それを疑うわけじゃありません。
ですが、それほど信頼できる彼女を不可思議な玉の機能で『「カナを美術大学まで移せ」』と即刻転移するあたりに、ジュンさんの恐ろしさがあると思うんですよね……
だって、消えたゴミ袋が本当にゴミ置き場にいったかどうか確かめてもいないのに……
しかも、人間で実験したかどうかもわからないのに……
異常心理状態じゃないかと……
次に、カナさん。
恋人に不可思議な玉を手渡したとします。無論、二人の絆の強さは(以下略
『『ごめん。一緒に学校へ向かいながら、話すつもりだったのよ。そしたらジュンが気をきかせて、大学まで移してくれたんで、言うの忘れちゃって……。そう、あの玉を所有できるのは、その日だけなのよ……』』って……
マジかよ……
忘れちゃうの……?
超常現象に慣れすぎでしょ……というか関心あるんだかないんだか。
なかなか、わたしの理解とは違うところでお話が繰り広げられていた印象でした。