第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】
1 題名
アナタヘノタンジョウビプレゼント
2 作者 比些志さん
3 投稿 19/03/06
4 書出 『ボクにとって彼女は女神そのものだ。』
誰とも口を聞いていない日に思わず声を上げるという気持ちに共感できました。
自営業的アイドル活動に勤しむヒロインが、スマホに明日の天気を訊ねると、スマホがGood Morning to Allの替え歌を歌いだす。
LINEってすごいなあ、と。そう思うわけです。
LINEは端末の基本機能じゃないんですよ。アプリケーションなんです。でも、こうして通信機能の固有名詞として、作者様が普通に使う。これがすごい、と思うんです。仮にこれがViberだったらスムーズに話しに盛り込めるのかと。
……微妙だと思うんですよね。そういったことを意識して作者様は固有名詞を使用しているのか? そこはわかりません。
閑話休題。
本作の意図しようとするところはわかるんですが、残念ながら、十二分に描けているとは思えないです。正直なところ、冒頭で語り部である『ボク』の正体を明かすことなく話を進めるのは、作者様の狙いがあってのことなのでしょうが、残念ながらそれほど上手くいっていないと思います。
なぜか?
作中では『目をつぶっていても脳裏に思い浮かべることができる、などと言うとおそらくきっと笑われだろう』、『誰に相談してみても』、『ボク自身も彼女の夢を陰ながら応援している』等の表現が使われていますが、これらこそが、語り部をAIたらしめる要素を排除しているように思えます。
作者様は『ボク』で終始させることで、読者にミスリードさせ、「え、この『ボク』ってスマホだったんだ!?」と思わせる仕掛けとされたかったのかもしれませんが、ミスリードを意識し過ぎているのか、AIである、という説得力に乏しい文章になっているように感じました。
どうしてAIがヒロイン・アノンに惚れ込み、応援し、己の願望を抱くに至ったのか……これらを読者に意識させなければ、納得のいく結末にはなりません。もちろん、本作の世界では携帯端末に自由意志が組み込まれている、というSFであればそれでも良いです。ですが、そういった説明もない。
読みようによっては、ヒロインの携帯端末がハッキングされていて、ストーカーまがいのファンが、「AIの自発性を装って」ヒロインに近づいているようにも読めます。
素材はコンテストテーマ的にも王道だったと思うので、再度、物語の展開のさせ方を推敲していただきたいところです。