時空モノガタリ-感想録

2000字小説投稿コンテストサイトの「時空モノガタリ」でコメントした内容を記録しています。

いまのひとこと 読まねば

No.166 【おくりもの】各評

……本当に残念で仕方がないのですが、総評がなくなってしまったようです。

 

最後に総評が掲載されたのはNo.162【あだ名】です。

 

待てど暮らせど163回以降のコンテストに総評がつかないので涙を禁じえません。ああ……最終選考作へのコメントと総評が公開されるようになったあの頃――我々は時空モノガタリ事務局さんとの距離の縮まりに感動したものです……

 

距離をおかれたのかしらん?

 

そんななか、第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】は選評の一部を外部に委託されたためなのか、最終選考作以上の作品のコメントが全て公開されています。この透明性、すばらしい。惚れ惚れします!

 

そんなわけで今さらですが、各評価を今後の読み方の参考にさせていただくためにも、ずらっと掲載したいと思います。(一部、改行を追加しています)

 

選ばれし外部審査員のコメントの数々をとくとご覧あれ!

 

1 twitterにて

 

今回は時空モノガタリ作者5名により最終選考を行いました。評価ポイントはその計を入賞作品にのみ表示する形をとりましたが、各審査員による評価コメントは最終選考以上の作品すべてにつけさせていただきました。

 

 

2 入賞作品

 

虫食いだらけの世界で僕はひとり砂を踏む

19/03/18 コメント:2件 入江弥彦

評価点合計74点 ※審査員5名の各持ち点は20。満点は100となります。

審査員A

人間や動物にバグが出現し、砂のように体が崩れていくというSF的な世界。冒頭の「僕らの世界は、バグに侵食されている」という文章が、とても印象的でした。主人公の名前を「ニゴウ」としたのは、結末に通じる伏線だったのでしょうか。素敵な作品だと思いました。

 

もし改善点を挙げるとしたら、結末で明かされる親との関係性などもからめ、もう少し「おくりもの」というテーマに寄せて書いた箇所が前半にあれば、よりわかりやすかったかもしれません。

審査員B

良かった点:ニゴウに思いを寄せる事がないチナホと、砂になってしまうリョウスケとチナホの両想いが、ニゴウを容赦なく冷たい存在にしている。このストーリー軸と、ニゴウの生い立ちを軸にした話が交叉しながら進む世界が興味深かった。


気になる点:砂の瓶がチナホに贈られている事でテーマになっていると思いますが、主人公を僕にする事で、実は砂にならないロボット?でした。の話がメインになっている。焦点がぼけ「おくりもの」のイメージが隠れてしまった印象を受けました。14行目でバグについて「人間や動物に」と言及しているが、最後に「人間にのみ」となり、矛盾を生じている。若しくは、意図的な矛盾なら活かされていない。と思う。

審査員C

人が流行病によって死んでゆく、そこにSF要素を足した独特の世界観に惹かれました。少年少女の三角関係が、「バグ」が入り込むことで壊れていく。死は悲しくともその先にも幸福があるという、人間の抱える矛盾した価値観について考えてしまいます。死をめぐる思春期らしい人間模様は鮮烈な印象を与え、それだけに主人公の取った行動と真相に驚きました。新たな展開を予感させ、混沌とした物語に奥行きを与えることに成功していると思います。

 

砂は「猫かもしれない」としながら、「人間のみ」にバグが生じるとも書かれており、そこが惜しいですね。話の辻褄が合うかどうか、推敲で改めて見直すといいでしょう。

審査員D

良かった点:「地平線」「砂漠」という一見、日本ではないのかなと思わせるワードから、そのすぐ後の「校庭」で物語の情景をふっと浮びあがらせる手腕が素晴らしいと思いました。また、最後で「砂」に繋げているところも良いです。構成力が見事だなと感じました。独特の切ない読後感が魅力の作品だと思いました。

 

こうすると良くなると思う点:とても面白かったです。こちらも、テーマ性に少し物足りなさを感じるのですが、他の部分が優れているだけに余計に残念に思いました。

審査員E

人物にバグが起こる世界という独特の世界観に読者を惹き込む、センスが光る作品である。まず、タイトルからして強烈なインパクトがある。想いを寄せる女性と愛し合っていた男子が自分と彼女に死んで残したプレゼントに対する、主人公の気持ちが最後になって明かされる。そこまで来てようやく「ひとり砂を踏む」の意味が分かるようになっている構成が上手い。読者に疑問を残すラストの展開も印象的である。

 

誤字や整合性のとれていない記述が散見され、その点だけが勿体なく感じた。

 

余計なプレゼント

19/03/17 コメント:2件 悠真

評価点合計83点 ※審査員5名の各持ち点は20。満点は100となります。

審査員A

ラスト3行のセリフと、暗い画面に反射した妻の、凄みのある笑顔の描写が痛快でした。ときに世の男性は、妻の理不尽さ、理屈の通らなさ具合に恐怖を覚えるそうですね。男はあきらめ黙り込むしかない、などとよく聞きます。この作品は特に既婚男性が読むと、より面白く感じられそうです。

 

その反面(一般論ですが)、女性読者には伝わりにくい場合があるかもしれないので、そういった面をもう少し補完すると、さらによくなるのではと思いました。

審査員B

良かった点:読むたびに、ライフポイントが削られていくのが辛い。物語の中とはいえ主人公の男性に言いたい「気がついたらのだから、早く決断した方が良い」 それほどにリアリティーのある描写だと感じた。ストーリーも職場での話を最小限にして対峙する二人に焦点を当てている事でメリハリがついていると思う。出だしの部分の改行なしで文章が進むのが重苦しさを出していて良いと感じた。

 

気になる点:良かった点と相反しますが、出だしの部分を中盤と同じ勢いの文章にするのもありだと思いました。

審査員C

同僚の女性からゲーム機をプレゼントされた夫と、その言動に目を光らせている妻とのやり取りがリアルですね。日常的な男女の衝突を痴話喧嘩で終わらせるのでなく、恋愛から結婚を経てレベルアップした妻の怖さが垣間見え、緊張感が文章からも漂っています。また、女性の闘争心を表現する小道具として、このテーマにゲーム機を選んだセンスは素晴らしいですね。やきもちと表現すれば可愛いですが、その裏の顔は不穏で、結婚と恋愛について深く考えさせられました。

 

切れ味の鋭さが魅力的な作品ですので、看板であるタイトルを工夫すると、このタイプが好きな読者層に読んで頂く機会が増すと思います。

審査員D

良かった点:とても面白かったです。人物のふとした部分の描写というか、目の付け所が良いと感じました。特に最後の、画面越しに反射した女の顔のシーンがゾッとして、良かったと思います。

 

こうすると良くなると思う点:「男」と「女」の視点にした理由があるのかな、と思いながら読んでいました。作者さんには何か意図があったのかもしれませんが、個人的にはよくわかりませんでした。もしないのであれば、よくある視点で読んでみたかったなと思いました。少し変わったことをすると、その部分に集中してしまい、物語が入ってこないことがあるのだなと今回、思いました。

審査員E

ひとつの贈り物を巡って交わされる夫婦喧嘩が描かれた作品である。テンポの良い会話のなかにお互いの不満や苛立ちが感じられる描写が上手い。男が持って帰ったゲーム機を女性からの贈り物と見抜いて尋問する妻の圧力や、何を言っても悪い方に捉える妻の思考にうんざりする男の心情がありありと伝わってくる。読者をはらはらさせるセンスのある展開のラストでは、妻の台詞にもはや恐怖さえ感じる。男の諦めと悟りは必然のラストであると思われる。

 

つつむもの

19/03/17 コメント:4件 秋 ひのこ

評価点合計91点 ※審査員5名の各持ち点は20。満点は100となります。

審査員A

いわば2000字のお仕事小説でしょうか。とても素敵なお話でした。「開けた瞬間、幸せが広がりますように」と願って品物をつつむサエコの姿、あちこちの物置で眠っているであろう、マル春の包装紙など、具体的なエピソードとリアリティのある設定に惹かれました。

 

あえて改善点を挙げるとしたら、ラストの2行でしょうか。あともう少しだけ、テーマをからめた印象的なセリフで締められれば、余韻と深みが出てさらによかったのではないかと思います。

審査員B

良かった点:贈りて受けての話が多い中で、間を取り持つ第三者の話。包装と言う裏方の仕事にスポットを当てる点も良かった。丁寧な描写と穏やかなストーリー展開で閉店前夜のある意味淡々とした仕事の中での不安と膨らむ期待が上手く描かれていると思いました。

 

気になる点:第1段落の「枷」の文字を辞書で引くとネガティブな意味しか出てきませんでした。商店街における重要性を考えると別の言葉の方がしっくりくると思いました。例えば「要」とか? 第2段落の「試し皺」より「迷い皺」の方が主人公のスキルの高さを引き立てると感じました。でも、その後の「迷いのない指さばき・・・」と重なりますが。良い作品なので、細かい所にも目が行きました。

審査員C

地域から愛された春松百貨店の閉店。長年、包装を担当してきたサエコの目線で描かれるこの作品は、ラッピングを通して贈り物について語るという、独創性のある切り口が新鮮でした。流れゆく時代を寂しく感じながら、懐かしく思うことも多く共感できます。中身が何であっても、包み次第で立派な贈り物になる。春松の包装紙を愛するサエコの凛とした心根が清々しく、流れるような会話も心地よかったです。文章も巧みで、読みやすかったと思います。

 

地域の細やかな描写と同じく、サエコ自身の描写があればなおよかったかもしれません。キャラクターが分かれば感情移入やすくなり、より幅広い世代の読者に魅力が伝わると思います。

審査員D

良かった点:コンテストテーマに対しての発想が素晴らしいと思いました。「物」ではなく「包むもの」にしたところに、驚きと感動のようなもの感じました。「つつむもの」は「包む人(者)」でもあり、タイトルも素晴らしいと思いました。とても面白かったです。個人的に一番、推したい作品です。

 

こうすると良くなると思う点:筆力もあり、テーマ性も良く、タイトルも秀逸で、分からない描写や引っかかりを覚える箇所もなく、個人的に改善点は見つけることができませんでした。

審査員E

贈り物そのものではなく、贈り物を包む人に焦点を当てた独創的な作品である。閉店しても最後までひとつひとつ丁寧に贈り物を包むサエコの人柄が伝わってくる。町に愛された店とその店を愛する主人公たちが切なく温かい最後を迎えようとしており、終盤の展開では未来への希望も見え、主人公たちを応援したくなるような作品である。

 

子どもの頃の話や町おこしの包装サービスの話がいきなり会話ででてくるので、前後との繋がりが滑らかだとより素敵な作品になると感じた。

 

贈る言葉

19/03/04 コメント:1件 浅月庵

評価点合計80点 ※審査員5名の各持ち点は20。満点は100となります。

審査員A

冒頭のつかみが素晴らしいですね。「贈る言葉」といえば、やはり卒業式を連想しますが、この先生は年度始めに生徒に伝えようとしている様子で、なんだか変だなと惹きつけられました。そして次から次へと繰り出される、先生らしからぬ脅しの言葉にびっくり。面白かったです。

 

改善点としては、生徒4人のうち笠松と船井の性別がわかりにくいので、それをはっきりさせると、ラストで服従を誓うシーンの映像が、読者に浮かびやすいのではと思いました。

審査員B

良かった点:テーマの切り口が良い。昔から「出来る先生」は体罰でなく内申点で縛り上げるからね。更にネットを活用するなんて、時事問題を上手く取り入れたブラックな仕上がり。スクールカーストや先生の性格や証拠集めのキッカケなどを滲ませる描写の入れ方が上手いと思いました。また、読んでいて気持ちいいと感じるのは、テンポの良さで先生視点に取り込まれているからですね。

 

気になる点:例えば「〇〇大学」より「あの大学」の方が勢いが途切れなくて良いと思いました。

審査員C

表面的な優しさを挟みながら毒を吐く先生が、生徒の悪事を次々に明るみにしていくという、支配体制の逆転劇が興味深いですね。内容は過激ですが、読み心地は良かったです。復讐のためではなく、あくまでクラスという狭い社会でのマウンティングにとどまっている所が、歪んだ教師なりの愛情を感じさせるのかもしれません。「贈る言葉」に漏れる教師の本音は、現代の教育問題にも当てはまっているように思えて、深く考えさせられました。

 

とても続きが気になるストーリーです。先生と生徒の対立がこの先どうなるのか、暗示させる描写を入れてみると、読者の想像もより膨らむと思います。

審査員D

良かった点:それぞれの生徒に「贈る言葉」はそう長くはないのですが、その中で、各生徒の性別や特徴、個性のようなものが分かる点が良かったです。きちんと配慮されているなと感じました。

 

こうすると良くなると思う点:「贈る言葉」のタイトル通り、最初から最後まで物語が進んでいきます。最後に、何か捻りというのか、強いオチがあればさらに良かったかなと思いました。個人的に、先生に共感できなかったのが残念でした。なぜ、ああいう言葉を贈るのか、短いエピソードや、もしくは先生のこれまでの背景のようなものが少しでも読み取れる部分があればなと思いました。

審査員E

非常に個性的でインパクトのある作品だった。「贈る言葉」というかたちで一部の生徒の悪事を暴き、追いつめていく教師の一人語りが独創的で面白い。卒業式ではなく三年の初めに言うという設定にすることで、この後の一年に繋げる展開となっているのが秀逸である。

 

ただ、現実問題としてここまで悪事を働く生徒たちが先生に素直に従って復唱するだろうかという疑問が残る。また、最後の方で言葉の使い方が不自然な箇所が複数あり、勿体ないと感じた。

 

宝島より愛をこめて

19/02/19 コメント:8件 クナリ

評価点合計71点 ※審査員5名の各持ち点は20。満点は100となります。

審査員A

キャッチーなタイトルがいいですね。淡々とした描写で読者に主人公の状況をさらりと伝えながら、「暖かい場所はひとつもなかった」「手足の痣を隠す」といった要素を着実に加えてゆく筆運びに感嘆しました。レシピノートを2人からの手紙に例え、現在の僕の状況を明かすラストに、読後感もさわやかです。

 

改善点は特に見当たりませんが、せっかくの素敵なラストをもっと活かせるよう、冒頭にその伏線を置いてから始める方法もあるかも、と思いました。

審査員B

良かった点:二千文字の中に、いくつものエピソードを織り込んだ深みのある展開だと思いました。

 

気になる点:読後に感じたのは「家族」でした。パン屋夫婦と父の話で進み、パン屋夫婦への思いで終わっているためです。ノートを贈り物と見た場合、レシピノートを贈る動機が希薄だと感じました。最後の三行に違和感がありました。「僕の家族」だとパン屋夫婦が子の位置づけになると感じました。また、相手に敬意があると自ら「さらにおいしいパン」とは言わないと思います。

審査員C

美味しいベーカリーへ通う主人公と、店長夫婦の交流に胸が熱くなりました。主人公の家庭環境は酷いものですが、心の支えになる大人がいてよかったと思います。理不尽な目に遭う子供のために、どこまで味方でいられるか。店長夫婦は心優しいというだけでなく本当の強さを持った人ですね。物語の背景は最小限に抑えられていますが、ラストまで想像が広がりました。少年の成長物語としても優れた作品でした。

 

展開次第では主人公の立場が悪化していた可能性もあるので、父の話は主人公がはっきり打ち明けた方がしっくりいくような気がしました。キャラクターの行動は「もしも」の想定も加えていくと決めやすいと思います。

審査員D

良かった点:作品に強く惹き込まれました。途中で主人公に共感し、とても胸が痛くなりました。読むひとを惹きつける良さを持った作品だと思いました。

 

こうすると良くなると思う点:主人公の父親のことは、わりと作中に出て来るのですが、その割に少し実像が掴めないかなと思いました。もう少し、読み手が想像できるような描写というのか、ヒントのようなものがあってもいいのかなと思いました。作者さんが、あえてそうしているのかも、とも思いましたが。

審査員E

パン屋を宝島と感じる子ども視点での世界観が鮮明に描かれている。読者が思わず主人公に肩入れしてしまうような描写力の光る作品である。温かい二人がいて魅力的なパンのある宝島と帰宅した家との対比がまざまざと描かれ、ノートを通じて思いを伝える二人の愛から家族のあり方を考えさせられる作品でもある。

 

惜しいのは、虐待からの解放はよくあるテーマであり、後半の展開にデジャヴを感じた。もうひと工夫オリジナリティが欲しかったように思う。

 

 

3 最終選考作品

 

世界からの贈り物が消えた日

19/03/18 コメント:1件 入江弥彦

審査員A

「僕の居場所」という概念を、ボロという野良犬の存在と重ね合わせ、丁寧に描いた作品。さびれた団地という舞台との相乗効果もあり、クラスで「ボロ雑巾」と呼ばれる主人公の寂しさややるせなさ、結末の不条理さをひしひしと感じました。

 

なお、「恵まれない僕への贈り物」であるボロが野良犬であることや、主人公とどんな出会い方をしたのか等が、序盤でもう少しはっきりと語られていると、読者はより感情移入しやすかったのではないかと思います。

審査員B

良かった点:主人公の無力感と優しさの混ざった抑揚のない日々が独特な世界観を作っていると思う。

 

気になる点:主人公が贈り物と感じていた犬によって救われた描写があると、読後に「おくりもの」をイメージできると思う。例えば2段落目の2行目の最後「あげたっていい(かもしれない)」の部分、ボロに対する感情が()部分によってトーンダウンしている。これによってリズム感が崩れ、主人公は題名ほどボロを思っていないと読者に感じさせていると思う。お父さんの個性が描かれている割には活かされていないなど、1行だけ切り出すと面白いものの全体では散らかって見えてしまうと感じた。

審査員C

野良犬のボロを唯一の友達にしている少年のお話というと、心温まるものがありますね。彼を取り巻く状況は穏やかではないものの、過保護な親に頼らない自立心の萌芽も感じられます。ボロの存在は、少年の隠しておきたい内的世界そのものかもしれません。結末に対して自分なりの答えを見つけるのは、少し時間がかかるでしょう。その時には周囲と違った関係を築く力が育っているはずです。

 

素晴らしい作品だけに誤字が残念ですね。変換ミスは特に悩ましいものですが、文字を大きくするかプリントアウトしてチェックすると防ぎやすいです。

審査員D

良かった点:かなり筆力があると思いました。情景が頭の中にスムーズに浮かんできて、すぐに物語に入っていくことができました。途中で疑問に思ったり、引っかかりを感じることもありませんでした。

 

こうすると良くなると思う点:とても完成度の高い作品だと思いましたが、テーマ性が少し、他の作品と比べると薄いと感じました。物語はこのままでも、もう少し「おくりもの」を強調できるのではないかなと思いました。

審査員E

自分と同じような境遇の野良犬ボロとの出会いを世界からの贈り物と考えていた主人公。たった一人の友達だったボロを大切にしていた主人公の思いや、中盤の不穏な空気、ラストではボロ失った主人公の叫びなどが、リアリティを持ってひしひしと読者に伝わる作品である。虐められていた主人公と贈り物という組み合わせは発想としては起こりやすいが、ラストであくまでもボロを欠いた主人公を主軸に置いたところが良かった。

 

ただ、一部誤字があるのが惜しい。

 

最後の贈り物

19/03/17 コメント:2件 田辺 ふみ

審査員A

起承転結、それぞれの段落で視点が変わっており、よく考えられた仕掛けに感心しました。とくに「転」の展開は、いったいどちらが生き残ったのかと手に汗握り、面白かったです。

 

懸念材料としては、この短い文字数での視点の移動が、読者によっては伝わりにくい場合があるかもしれないと思いました。また「おくりもの」というテーマとの関連性で、尚也とのエピソードか、花言葉の意味などを花の種類にからめると、ラストに深みが出るのではないでしょうか。

審査員B

良かった点:ステータスとしての若い女がおっさんのプライドの拠り所。おっさんを見下しながらも依存している若い女若い女におっさんの臭いを感じている(社会的に)非力な尚也。この三人のバランスが絶妙だと感じた。

 

気になる点:男が人生で躓いた詳細より、女の我儘を満たす包容力(財力)の描写を増やす方が凋落ぶりが際立つと感じました。4段落目の主人公がユナに変わってしまった事で「最後の贈り物」を渡したおっさんの思いがぼけてしまったと思う。

審査員C

美女が一人に、男が二人。もつれた関係にサスペンスの要素が上手く織り込まれ、誰が破滅するのか分からない緊迫感が、ラストまで物語を牽引しているのは見事だと思いました。掌編であることを生かした終わらせ方が、登場人物の個性を際立たせています。見方によっては純愛にみえる小道具が、テーマに沿って効果的に使われているのもいいですね。登場人物は退廃的な印象を受けるのに、恋愛という軸がぶれないため、読後感も良かったです。

 

二人の男性に、こんなに愛されるユナの素性や容貌が気になります。何を書くかを迷う時、読者の期待を予想して描写を選んでいくのも、一つの手であると思います。

審査員D

良かった点:物語として、面白かったです。ユナの冷めた部分が話を引き立たせていると感じました。喧嘩のシーンも良かったです。どちらが助かったのか、ハラハラしました。

 

こうすると良くなると思う点:視点が変わる部分が少し気になりました。とても良い構成だと思います。視点が変わるのは全く悪くないと思うのですが、注意して読まないと誰の視点なのか、すぐに分からないところです。そこにもう少し配慮があればさらに分かりやすく読めたかなと思いました。

審査員E

短いなかに二人の男と一人の女に起きたドラマが描かれている作品である。男二人が縺れるシーンは緊張感が読者に伝わってくる。ラストの描き方と序盤の伏線の置き方も上手いと感じた。

 

全体的に淡々とした語り口で読みやすくもあるものの、単調にも感じられる。メリハリをつけるなど、もう少し工夫ができたのではないかと思う。また、何故これから女性に会いに行く男がナイフを持ち歩いていたのかなど、不自然な記述が散見されるのが気になるところである。

 

セカンドバースデー

19/03/15 コメント:1件 若早称平

審査員A

二つ目の誕生日という発想が、とても素敵ですね。5月の武元さん・後藤さんという呼び名が、3月には たけもっちゃん・ごっちゃんへと変わっていて、その友情の変化とともに、おそろいのブレスレットがほほえましく感じられました。

 

このままでも綺麗にまとまっていると思いますが、エピソードの強化として、ブレスレットまたは二人の名前を、やがて親友へ変化していくことを予感させるような、何か運命的なものに設定する方法もあるかもしれません。

審査員B

良かった点:仲良くなるキッカケを探していた武元さんの、不器用なまでの真っ直ぐさと早とちりな部分が可愛くもあり心配な部分でもある。そう感じさせる展開が、第一段落の終わり方と第二段落の「またその話・・・」で、やっぱりと納得させている。構成の妙を感じました。

 

気になる点:「クラスメイト(達の私に対する)視線が・・・」括弧の部分を「の」に置き換えた方がリズム感が良くなると感じました。他にも丁寧過ぎる説明がリズム感を損なっていると感じました。

審査員C

人生の一ページに残る青春の幕開けは、誰もが願望として持っているような気がします。思いがけない嬉しい出来事に戸惑う主人公の心を、ためらいもなく射抜く武元さんの行動力が、とてもテンポよく描かれていて素直に楽しかったです。二人の呼び方が変化した所も、近づいた距離感を感じて心が和みました。時間をかけて育てたかけがえのない友情こそが、なによりもの大切な贈り物だったのかもしれません。

 

ただ、クラスメイト全員が誕生日を間違うはずはなく、彼らが面白がって武元さんに話を合わせたとしても、文章内に説明がないと伝わりません。伏線を回収する一言があると良かったですね。

審査員D

良かった点:爽やかな雰囲気が魅力の作品だと思います。個人的にタイトルが良いなと思いました。友だちが出来て、これまでとは少し違う自分というか、生まれ変わると言ったら大袈裟ですが、そういう意味合いも感じたので、とてもしっくりくると思いました。ラストのふたりの情景も浮かんできて、卒業のしんみりとした空気感、これからも続いていくであろうふたりの友情を感じられて良かったです。

 

こうすると良くなると思う点:きれいに纏まっていて、好感の持てる作品だと思います。特に改善点が個人的には見当たりませんでした。

審査員E

勘違いから生まれた友達との思い出の日を、自分の二つ目の誕生日として大切に思っている主人公。前半の入学当初の場面では会話の節々から初々しさが感じられ、戸惑う主人公や友達になっていく過程が鮮明に描かれている。後半の卒業式での気心知れた仲になってからの会話の様子は前半との対比が上手く、友達想いの二人の関係の変化がよく伝わってくる。

 

ただ、セカンドバースデーという設定自体は面白いものの、その後の展開はもう少し工夫の余地があったように感じた。

 

猫が嫌いな花屋の娘

19/03/14 コメント:2件 高月雫

審査員A

いきいきとした勢いのある文章に、どこか目が離せなくなるような魅力を感じます。

 

素敵な物語なので、細かな背景や登場人物の心の機微を、もっと知りたいと感じました。この限られた短い字数の中では少し多めに思える読点や、重複している表現(例:複数出てくる「子供のポール」のような箇所)を省略したり、「・・・・・・」を「……」(3点リーダー)に変えたりすると、重要な終盤のシーンで、さらに描写を増やすことができるのではないでしょうか。

審査員B

良かった点:読みやすい文章だった。

 

気になる点:読後に感じるのはジョアンの「トラウマ」でした。猫からの「おくりもの」よりジョアンの異様さの描写が強かったと感じました。「プレゼントを受取る→愛する者を失う」と言うトラウマ。猫を見ると昔を思い出す。が重要な要素だと思うが、ミスリードの言葉があると感じた。例えば4段落目の「猫を嫌う」より「猫を避ける」の方が良いのでは? 7段落目の「徐々にエスカレート」は猫の贈り物に好意的なジョアンの言葉としては贈り物に否定的な感情を抱いていると感じさせると思う。

審査員C

苦労をしながらも家族と幸福に暮らすジョアンが、何故か贈り物を頑なに受け取らないという、ちょっとした謎を軸にした展開で、読者の好奇心をくすぐります。日常的な物語なのに、ストーリーの起伏のつけ方が上手く、ラストまで惹きつけられました。孤独だった主人公と猫との繋がりにも感情移入しやすく、全体的に温かみのあるホームドラマで読後感も良かったです。深まる家族の絆を強く感じられ、贈り物というテーマとしても分かりやい作品でした。

 

同じ文末が続くと文章が単調になるので、ここを変化させる工夫をすると、より豊かな表現力に磨かれた物語になると思います。

審査員D

良かった点:ヒロインを理解しようとする主人公の存在が良いなと思いました。

 

こうすると良くなると思う点:タイトルが少し気になりました。『猫が「嫌い」な花屋の娘』とありますが、厳密には「嫌い」という言葉はぴたりと当てはまらないような気がします。悲しいことがあって主人公はトラウマになっているのですが、イコール「嫌い」という言葉が個人的にうまく結びつきませんでした。もう少し、主人公の気持ちや言葉を慎重に吟味すれば良いかなと思いました。

審査員E

猫の贈り物というテーマの独特の捉え方が特徴の作品である。ジョアンの幼い頃のトラウマや、夫婦の愛情によってそれを乗り越える過程が鮮やかに描かれている。主人公の妻を大切に思う気持ちがよく伝わってきた。

 

ただ、一文一文がぷつぷつと切れていて読みにくさを感じる点が勿体ない。また、虐めの設定など中途半端になっていて書ききれていない部分があるように感じる。前半は説明的で、後半は逆に展開が単調になっているところも、もう少し工夫のしがいがあったように思う。

 

消去していいですか?

19/03/10 コメント:2件 つつい つつ

審査員A

読後感がとてもいいですね。「消去してもいいですか?」というデジタルなメッセージをタイトルにし、それを重要なシーンにも持ってきた発想も素晴らしいと思いました。

 

一つだけ気になったのは、兄がいじめを受けて自殺したことに対し、主人公が「恥ずかしかった」「情けなくて」と語っている点。読者によっては抵抗を感じる、かなり強い表現だと思います。あえて主人公にこう語らせるには、そう思うだけの根拠となる描写が、少し必要ではないでしょうか。

審査員B

気になる点:淡々と無難に当たり障りなく生きてきた主人公とそれが出来なかった兄。主人公に勝負に出た紗英。兄からのカメラが物語の核として展開していくのが面白いと感じた。

 

気になる点:空白改行で時間の変化が分かると読みやすいと感じた。例えば「何年も人が使ってないようなさびれた公衆電話」意味が重複していてリズム感が崩れていると感じました。兄の話と紗英の話が相乗効果を出していると感じなかった。どちらかに絞った方がテーマが引き立つと思いました。

審査員C

安定した文章と郷愁を感じさせる描写で、物語の世界に引き込まれました。デジタルカメラを遺して自殺した兄。それを引きずる「僕」と恋人の紗英に訪れる変化が、繊細な心情で描かれていて感情移入しやすい。カメラという記録する媒体が遺品としてだけでなく、効果的に使われているのも良かったです。読んだ後だと、自分自身を「消した」兄への、主人公の羞恥心も理解できる気がします。みずみずしい感性が印象的な恋愛小説でした。

 

兄の話が衝撃的なためか、紗英との場面がやや淡泊に感じられました。紗英のエピソードを冒頭にして彼女を印象づけたりすると、バランスが取れるような気がします。

審査員D

良かった点:序盤から物語に惹きこまれました。特に最初のシーンの描写がとても素晴らしいと思いました。冒頭では灰色のような、色彩を感じられない主人公の心情から、最後ははっきりと世界に色があることを認識させる話の運びが良かったです。

 

こうすると良くなると思う点:とても良い作品だと思いました。1点だけ気になってしまったのは、最後の最後です。ラストの一文が、ぶつり、と切れてしまうような文末ではないかなと思いました。余韻を残すというか、もう少し心配りを感じられたらなと思いました。

審査員E

兄の残したカメラを何気なく使っているうちは気づかなかった気持ちを、人を撮るという行為を通して兄との思い出と共に思い出し、のちに写真を見返す頃には手放せなくなっていた主人公。写真というものを通して成長が描かれている作品である。前半の二件のメールから繋げる展開も上手いと感じさせる。

 

ただ、必要以上の説明が多く冗長に感じる点と、それもあってか前半の内容からラストの展開が予想できてしまう点については工夫の余地があるように感じた。

 

19/02/27 コメント:2件 W・アーム・スープレックス

審査員A

不幸の手紙」など、不幸が連鎖するアイテムのお話は耳馴染みがありますが、開けた人を幸せにする箱というアイデアは新鮮に感じました。ふたに手をかけただけで幸福感がこみあげてくるほどのパワーを持つ箱。中に何が入っているのか……面白かったです。

 

気になったのは、嵐福三の名前が浮いている点。多くの人が箱をゆずってきた経過を示すだけなら、伝票に受け取り印がたくさん並んでいるという描写などでもよかったかもしれません。

審査員B

良かった点:『開けるまでもなく幸せ』の設定が実に見事。そして、主人公の性格が違和感なく変化し幸せを運ぶ訪問者になる・・・、とコメントを書いていて気づいたのは箱に憑依された不幸な話なのかもしれないと思った。何故なら「尊き贈り物」も「11光年でのプレゼント」も推理小説のようなトリックでどんでん返しがあったからだ。

 

気になる点:敢えて平仮名を使っていると思う箇所がありますが、ひらがなが続く事で読みづらくなっていると思う。「そんなこと、死んでも・・・」付近の会話、交互に台詞が並んでいるけど、どちらの台詞か見失ってしまう。訪問者から受け取ってしまう事で、主人公の性格が明示されるので、出だしの説明がなくても読者に伝わると思いました。

審査員C

冒頭を見るだけでも、主人公がいかに気の弱い不幸な男であることが分かります。突然の来訪者が、プレゼントしてくれた箱の中身は一体何なのか。嵐福三という不思議な男や語られない箱の来歴など、ちょっと謎を加えて、日常を非日常に変えてしまう展開が面白かったです。物欲は満たしてしまうと、すぐに飽きてしまうもの。我々の中にもよくある感情に気付かせつつ、主人公の取った選択が心地よい読後感を残す作品でした。

 

文体に独特の柔らかさがありますね。読みやすくするために、平易な漢字を適度にひらがなにする作家もいますが、「思う」と「おもう」が混ざっているので、ここは統一した方がいいと感じました。

審査員D

良かった点:奇妙さがとても魅力になっている作品だと思いました。タイトルをシンプルに「箱」としたところも、個人的には良かったと思います。

 

こうすると良くなると思う点:とても面白かったです。物語にも主人公にも謎が多く、そこが魅力なのですが、後半になっても謎が解ける様子もなく、読んでいて「スッキリ」しない部分があるなと思いました。中盤で台詞が多くなる部分があるのですが、台詞のみではなく、もう少しお互いの仕草だったり、どういう様子で話しをしているのか等の描写があれば良いのかなと感じました。

審査員E

ストレートにテーマと向き合っている作品である。理由も分からないが幸福になれる箱という設定がユニークである。箱の受け渡しを通して、主人公の境遇が次へと繋がれていく書き方も上手いと感じた。

 

ただ、ラストの台詞はいきなり言うには不自然かと思われる。また、主人公の現在までの不幸や箱を開けたときの幸福感など全体的に描写が漠然としており、不幸からの解放のリアリティが伝わらず読者が共感できずに置いてきぼりにされてしまう印象を受ける。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

審査員の方々によって、着目点は多少異なるものの、概ね、良い点を探そうという部分が見受けられたのではないかと感じます。(もちろん、事務局さんがそういう評価シートで委託しているわけですが……)

 

一次・二次選考が事務局さんで行われているわけですが、審査員から「何でこの作品入ってないんでしょうか?」というようなコメントはあったんでしょうか?(裏を返せば、「どうしてこの作品が入選してるのかわからない……」的な)

 

まあ、審査員の皆様は最終選考以上のみ読まれた方がほとんどのような気もするのですが……(審査員BさんがW・アーム・スープレックスさんの他作品に触れているので、読まれている方もいらっしゃるんでしょうけど、大変ですものね)

 

個人的にもコメントを参考にじっくり読ませていただこうかと思います。

そういえばどうでもいい話ですが、コメントを読んでいて審査員Eさんの『工夫の余地』、『工夫のしがい』というコメントは口癖なのかしら、と感じましたね。多用されているので。